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「翔君!」
体がゆすられている感覚と僕の名前を呼ぶ大きな声で、僕はハッと体を起こしてその声の方を確認する。
するとそこには、必死そうな顔をして僕を見つめる島田さんの姿があり、何かあったのかと周りを見回すと、いつの間にか教室に入って来ていた先生と椅子に座ったクラスメイト達が僕の事を心配そうに見つめていて、教室の雰囲気は異様な物になっていた。
「その、なんだ。柊雫が今日まだ来ていないから、仲良くしていたお前に聞こうと思ったんだが……どうかしたのか?」
その空気を壊そうと声をかけてくれた先生は、雫の欠席よりも僕の顔色を窺っている様だった。
「翔君。これ」
そんな中、突然島田さんが僕にハンカチを差し出してくるが、僕にはその意味が分からず不思議そうに彼女の顔を見つめ返すと、彼女は優しい口調で言葉を繋げる。
「だって今、翔君泣いてるから」
島田さんのその言葉で、僕はやっと自分の目から涙が零れている事に気が付いて、教室中の異様な空気の正体を理解する。
僕は島田さんの手からハンカチを受け取って自分の頬に当てると、その柔らかな感覚と共に1つの“わがまま”を見出して、大きく息を吸って声を出す。
「先生。ちょっと柊さんと喧嘩したので仲直りしてきます」
僕の言葉に先生は驚いた顔をするが、直ぐ何事も無かった様に出席簿を取り出して口を動かす。
「柊雫と柊翔は風邪で欠席だな」
僕は先生のその言葉を聞くと、机の横に掛けてあった鞄を持って立ち上がる。
「島田さん!これありがとう。ちょっと行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」
島田さんにハンカチを返して、彼女の後押しする様な声に笑顔で頷くと、僕はクラスの皆に頭を下げ一礼をしてから教室を駆け足で出て行った。
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