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勢いに任せて学校の門を出たのは良いものの、雫がまだ“この時間“に残っているかも分からず、僕は途方に暮れてしまっていた。
「どうするかな……」
僕はそう呟くが、気持ちは変に晴れ晴れとしていて、下を見ることも無くあたりを見回す。
すると、僕の目に飛び込んできたのは、長い髪を左右になびかせながら、下を向いてトボトボと力ない足取りで学校の周りをウロウロしている、見覚えのある女の子の姿だった。
思ったよりも早く探人を見つけた僕は、自分に活を入れる様に大きく息を吸って、その子に近づいていく。
「おはよう。雫」
僕は雫の目の前に立って、そう声をかける。
その声で下を向いていた雫もようやく僕に気が付いた様で、雫はゆっくりと僕の顔を見上げると驚いた様にビクリと体を動かす。
雫のその顔に、昨日の辛そうな顔をした雫を重ねてしまい今にも逃げ出したくなるが、それを抑え込むようにして僕は喉の奥から声を出す。
「……デートしようか」
僕の言葉を聞くと、雫は心底怪訝そうな顔をして僕の顔を睨みつける。
雫のその無言の問いに答える様に僕も何も言わず笑顔を返すと、雫の手を取って学校とは真逆の方に向かって歩き始める。
「ちょっと翔君!どこ行くの!」
手を払い除けようとはしない雫が、僕に引っ張られる様にして歩きながら分かり切った質問をしてくるから、僕もまた彼女に笑顔を向けながら同じ返答をする。
「だから、デートだって」
僕のその返答を聞くと雫はピタリと足を止めてしまい、僕もそれに合わせる様にして足を止めて雫の方に振り返る。
「しらないよ」
俯きながら小さな声で呟く雫に、僕は変わらず笑顔のまま返事する。
「何がだ?」
「学校さぼって」
「一日ぐらい大丈夫だって」
「海ちゃんが悲しむよ」
「……後で一緒に謝ってくれるか?」
「私は翔君の娘なんだよ」
「ああ、そうだな。だから誘ってるんだ」
「……知らないんだからね!」
雫はそう告げると僕の手をギュッと力強く握りしめて、目に涙を溜めながら僕の顔を睨みつける。
「ああ、大丈夫だ」
僕はそんな雫に対して相も変わらず自信満々に返すと、雫は怒ったようにもっと強く僕の手を握りしめる。
「せっかく私も大人になろうって思ったのに!」
雫は吐き捨てる様にそう言うと、僕の前を先導する様にして歩き出して、今度は僕が連れられる様な形になってしまう。
「そんなに焦って大人に成らなくても良いと思うぞ?」
「それを翔君が言うの?」
そう言った雫は楽しそうに笑顔を見せてくれた。
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