5日目前半

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9  外も少しずつ暗くなってきてポツポツと街灯が明かり出してきた頃。  僕達は冷たい風に背中を押される様にして、話す事もせず刻々と過行く時間を感じながら歩いていると、ふと雫が声を漏らす。 「海ちゃん?」  雫の声の先に目線を送ると、暗くなって人気のない公園の前で、スマホ片手に時間を潰している島田さんの姿があった。  雫の漏らした声は島田さんにも聞こえていた様で、島田さんは僕達に気が付くと、スマホをカバンに直して笑顔で手招きをする。  島田さんの姿に、僕と雫は顔を見合わせてから急いで彼女の側へと駆け寄っていく。 「お帰りなさい。ちゃんと仲直りできたの?」 「あの……はい。おかげさまで」  話せるような距離まで近づくと、島田さんが嬉しそうに笑ってそう言うから、僕は恥ずかしくなってしまい、頭を掻くきながら言葉を返す。  そんな会話を見ていた雫は、不思議そうな声を出して僕に質問をしてくる。 「どうして海ちゃんが知ってるの?」  雫のその言葉に島田さんは驚いた様な反応をするが、僕の顔を見て察したのか悪戯な笑みを浮かべて代わりに返答してしまう。 「それはね。翔君がホームルーム中に、皆の前でそう言って教室を出て行ったからだよ」  島田さんの言葉に僕は何も弁明が出来なくて、二人の視線から目を逸らす様にそっぽを向いていると、雫が僕の服を引っ張ってどこか嬉しそうな声を出す。 「もう!」  雫のその言葉にならない声が嬉しそうで、僕はもっと気恥ずかしくなってしまい無理やり話を逸らす。 「それで島田さんは何してるの?」 「なにって、2人が帰って来るのを待ってたんだよ?」  さも当然の様にそう告げた島田さんに、僕と雫はあっけにとられてしまうが、島田さんの凄さの前に、僕達は自然に笑ってしまっていた。  そんな僕と雫の態度に、島田さんは不服そうな声を出して怒ってしまう。 「ちょっと!笑わなくてもいいでしょ!本当に心配したんだから」 「ごめんごめん。なんだか嬉しくなっちゃって」 「ただいま。海ちゃん」  雫は元気にそう告げると、島田さんに抱き着いて嬉しそうに笑顔を見せる。 「もう、都合がいいんだから……」  島田さんも島田さんで、さっきまで怒っていた様に見えたのに、直ぐに雫の頭を優しく撫でてそう呟く。  その光景が嬉しくなって暫くの間そんな二人の様子を眺めていると、雫が急に島田さんからスッと離れて、まじめな顔をして話し始める。 「二人に話したい事があるんだけど……いいかな?」  雫のその真剣な表情に、僕と島田さんは何も迷う事なく笑顔で答えた。 「いいよ」
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