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5日目後半
10
僕達が公園の中に入り、近くにあったベンチに座ると、真ん中に座った雫が大きく息を吸って話を始める。
「……あのね。先ずは海ちゃんに聞いて欲しいんだけど」
雫は心細そうに自分の手を握りしめながら、左隣に座る島田さんの顔を見て話し始める。
「私は翔君に会う為に、未来からタイムスリップして来たんだ」
島田さんは雫の言葉を聞いても驚く事無く、口元に手を当て真剣な表情になって、小さく言葉を零す。
「なるほどね。急に翔君がモテるなんて、おかしいと思ってたんだよね」
その島田さんの言葉に、雫の方が戸惑いながら僕の顔を見て複雑な視線を送ってくるが、僕は首を縦に振るしか出来なかった。
そんな風にアイコンタクトで話していると、島田さんがやっと僕達の切ない音の無い会話に気が付いたのか、無理やり話を戻してしまう。
「あ、ごめん。続けて?」
「う、うん。それでなんだけど、私今から未来に帰ろうと思うんだ」
来ると分かっていたその言葉は、唐突にそして当然の如く『今』と告げてくる。
心の準備はとっくに出来ていた筈なのに、僕は動揺も隠せないで慌てて声を出しそうになる。
だが、雫のしっかりと前を見る真剣な眼差しに、喉まで込み上げてきた言葉は声にならないまま消えてしまう。
そんな僕を見てか、島田さんは僕に代わって言葉を告げてくれる。
「そんなに急に帰らなくてもいいんじゃない?」
島田さんが代わってくれた静止の言葉を聞いても、雫の意思はもう決まっている様で、彼女は首を横に振る。
「ううん。今帰りたいんだ。私の家に」
雫のその言葉を聞いて、寂しさと一緒にどこか安心している自分も居て、僕は右腕で目元を乱暴に拭うと、鼻声のまま無理やり声を捻り出す。
「そうか、なら……さよなら。だな」
「うん、さよならだよ」
ちっぽけな僕達は、小さな決意を『さよなら』と言いう言葉に乗せて確認しあう。それは、自分から逃げないという約束の言葉になっていた。
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