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しかし、そんな決意を遮る様にして僕と雫の間に島田さんが立つ。
「嫌よ! そんなの」
少し乱れた声で叫ぶ島田さんに僕と雫は何も言えなくなり、初めて聞くその声に気圧されてしまう。
「ねえ、雫。私達はもう友達なのよね」
「そうだよ」
「なら、未来で自分の時間で頑張ってもいいと思うんだけど、たまにはこっちに帰ってきてよ……」
島田さんは僕達の言葉の意図を汲み取って尚、それは嫌だとまっすぐに“わがまま”を伝えてくれる。
「翔君もそれぐらい良いでしょ?」
濡れた目で怒りながら精一杯のわがままを言う島田さんに、僕はまた初めの一歩目すらも間違えそうになっていた事を気づかされる。
大人になるって事はきっと、子供の様なちっぽけな見栄で自分のしたい事から目を背ない事なのだと、そんな風に思えて僕も無理やり声を捻りだす。
「そうだね。うん、そうだ」
僕はそう言って頷くと、霧が晴れた様にスッキリとした思考で二人に向かって言葉を返す。
「雫、僕は君の父親なんだろ?」
「うん、そうだよ……」
「え! ちょっと待って」
僕の言葉を聞いて、今にも泣きそうな顔をした雫は首を縦に振って声を返してくれる。
その横ではそれとは対照的に、島田さんが初めて知った新事実に、先程までの真剣な顔が嘘の様に落ち着きを失い、あたふたと手を空中で泳がせる。
そんな島田さんを横目に、僕は雫に対して一方的に会話を続ける。
「だからきっとこの場所も、もう雫の帰ってくるもう一つの家なんだよ」
「へ?」
僕のひねくれた言葉では雫には伝わらなかった様で、僕は咳払いをしてからもう一度言葉を選び直す。
「何かあったらいつでも帰って来な。ここはもう雫が居ていい、もう一つの家なんだから」
今度はしっかりと僕の意思が雫に伝わる様に、雫から教わった方法で、真っ直ぐ彼女の目を見てそう言う。
「……ずるいよ。二人とも」
雫は震えた声でそう呟くと、鼻をすすってからキラキラとした瞳で僕達に笑顔を見せてくれる。
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