5日目後半

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 僕は体制を戻して深く息を吐くと、自分の座っている位置がベンチの端になっていて、島田さんが僕に気を使って、雫が居た時の様に狭くしてくれていた事に気が付く。  そんな気遣いを感じてもう一度息を吐くと、体の力が抜けたのか、雫とのある会話を思い出して、島田さんに向かって同じように質問をする。 「島田さんってさ、将来の夢ってある?」 「将来の夢?」  僕の不意な質問に、島田さんは不思議そうに首を傾けて僕の言葉を繰り返す。 「そう、お花屋さんになりたいとか、お医者さんになりたいとか」 「うーん。まだ具体的には考えられていないかな」  僕の言葉に島田さんは頭を抱えて真剣に考えてくれるが、直ぐに困った様に愛想笑いを浮かべてそう返してくる。 「僕はあるんだ。聞いてくれる?」  僕は自分に自信をつけたくて、小さい星が見える夜の空を見上げながら、しっかりと声に出そうとする。 「うん!」  島田さんは僕の意図を汲み取ってくれたのか、僕の背中を押す様に優しく元気な声で直ぐにそう返事をくれる。  そんな些細な事に泣き虫な僕は、視界を少しだけ歪ませてしまう。 「何からすればいいとか、そんなの全く分からないけど……僕いつかタイムマシーンを作るよ」 「……そっか」  島田さんは、僕の突拍子も無い夢を子供の様だと笑ったりする事もしないで、諭す様に、覚悟を決めたかの様に強くしっかりと声に出して返事をくれる。 「勉強しないとなー!」  そんな島田さんの優しさに、僕は今にも零れ落ちそうな涙をグッとこらえて、体を伸ばしながら誤魔化す様に、だけどちゃんと自分に言い聞かせる様に大きくそう声に出す。 「ふう……島田さん、また勉強教えてよ」 「うん! 翔君ならできるよ」  島田さんから帰ってきたその温かな言葉に、僕の心は激しく揺れてしまうが、彼女のまっすぐなその視線を僕はしっかりと受け止めると、公園を後にするべく力強く立ち上がった。
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