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1時間目の授業が終わるまで時間を潰してから教室に戻ると、教室を出る前とは明らかに違う、ニコニコと満足そうな雫と疲れ切った顔をした僕の顔を見て、クラスメイト達がコソコソと何か話しているようだった。
だが雫はそんなこと気にするような様子も見せずに、自分の席に向かって堂々と歩いていく。
かくいう僕はそれとは対照的に、雫の後ろをコソコソとついて行きながら、クラスの反応にビクビクと怯えて足を進めていた。
雫は席に座ると早々に後ろを振返って僕の顔を見る。
すると、やっと異変に気が付いたのか、僕の席に肘をついて、下を向いている僕の顔を覗き込みながら話しかけてくる。
「どうかしたの? 翔君」
「どうかしたって……」
僕が曖昧に言葉を返して教室の中を見回すと、雫は不思議そうな顔をしたまま僕の目線をたどるようにして顔を動かす。
雫は、そこまでしてようやくクラス全体の異様な空気に気が付いたようで、落ち込んだような、困ったような顔をして目線を下に落とす。
「ごめんなさい」
雫から出てきた悲しそうで元気のない声は、今にも涙を流しそうな、そんな震えた音で僕の耳に入ってくる。
確かに、こんな空気になったのは彼女が原因の一環なのかもしれない。だけど、それは僕がこんなことでオドオドしているが悪い、ただそれだけなのだ。
僕は雫の頭に手を置く。すると彼女は顔を上げて僕の顔をじっと見つめてくる。
正直、その可憐な表情を見て可愛いと思ってしまい、雫から目を逸らすが、手はそのままでしっかりと彼女に向かって語り掛ける。
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