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「心配?どうしてですか?」
「だって、これほどなにも見えない真っ暗闇で一人取り残されたら怖いじゃない」
「怖い?一人になることが?それとも暗闇が?」
「どっちもよ。もしもこの状況で一人ぼっちだったら、多分気が変になっていたんじゃないかと思うわ」
「そうですかね」
「そうよ。こんな状況に置かれて改めて思ったわ。見えなくなることほど恐ろしいことはないって。もしも目が見えなくなるくらいなら死んだほうがましよ」
「大げさな。なにも死ぬことはないでしょう」
「まあ死ぬことはないにしろ、死に値するってことよ。例えば私は旅行が好きじゃない。それは美しい景色をこの目で見るためなのよ。目が見えなけりゃ旅行に行く気にもならないでしょ」
「見えなくたって、その場所に行けば空気を感じることはできますよね」
「空気なんて感じるわけないでしょ。そんな気になってるだけよ」
「そうだとしても、旅行くらい行ってもいいと思うんですけど」
「それなら旅行はいいわよ。だったら読書はどう?目が見えなければ本を読むこともできないじゃない」
「プロが朗読したものを聞けばいいだけです」
「それだと自分の感性で行間を読むことができないじゃない。人それぞれ読み方ってものがあるんだから」
「それでもストーリーはちゃんとわかりますよね」
「なによあなた。いちいち突っかかってくるわね」
「別にそんなつもりはありませんよ。ただ目が見えなくたってそんな悲観することはないんじゃないかと」
「いやいや。悲観するでしょ。だって映画も見れなくなるのよ。さすがにこれはストーリーだけわかっても面白くないでしょ」
「それはまあ、そうですかね……」
「でしょ?他にも色々あるわよ。車の運転だって無理だし、パソコンやスマホだって触れない。私はやらないけどテレビゲームだって遊べないじゃない。目が見えないってことは、それだけ不自由ってこと。生きてる価値が半減するのよ」
私のボルテージが上がるのと反比例するように、カタセは「まあそうかもしれませんね」と応じたきり言葉を発しなくなった。
もしかしてめんどくさい女とでも思われたのだろうか。議論するつもりはなかったのだが、持論に反することを言われるとむきになり、それを押し通してしまうのが私の悪い癖だ。なんとかフォローしなければと思うものの、ばつが悪くてどう切り出したものか迷ってしまう。
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