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父が私を埋めました──。
犬ソリに、亡骸となった私を乗せて、町から一週間ほど離れたツンドラの地に埋葬するために向かったのです。
かの場所は一年中強風が吹き荒れる凍原の、木が一本たりとも生えない氷の荒れ地。
父はほどよい場所を見つけると、乗せてきたツルハシとシャベルを使って、凍る地面を突き刺し、子供の背丈ほどもある穴を掘りました。それから私を肩に担ぐと、穴の中に静かにおろしたのです。
「娘よ。美しき娘、タマラよ。どうか、安らかに眠っておくれ──」
父は祈りをささげ、氷の土をかけて埋め戻しました。
それから百年。
私は暗闇の中で、埋められた当時と変わりのない姿で横たわっています。
一年のほとんどを氷に閉ざされたツンドラ。真冬は日中でもお日様の出ない、極寒の極夜が続きます。反対に、一瞬の夏はお日様が沈まない白夜が訪れます。それでも夏の陽射しは弱々しく、氷の大地が溶けてしまうようなことはありませんでした。
ところが、ここ数年の夏は、暖かい日が続くようになりました。春の陽光は氷の大地を解かし、地表を露にします。夏の陽射しは地表を温め、氷の奥深くまで熱を伝えます。もし融解が始まってしまったら──。
私は以前の私でいられなくなる。
屍の劣化が始まり、よもや肉片のついた白い骨が露わになってしまうかもしれません。
暖かな陽気にさそわれ、お腹を空かせた熊がエサを欲しさにやってきたら、あるいは、トナカイを追いかける猟犬が、匂いを嗅ぎつけ、主人に知らせるかもしれない。
それよりも、春がもたらした氷水の清い流れが、眠っていた微生物たちを息づかせ、屍と化した私の躰を蝕んでしまうかもしれません。
いずれにしても、これ以上、凍った大地が解けてしまうことがないよう、祈るよりほかありませんでした。
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