極夜

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 けれど、そう思っていたのは父だけでした。町にいる年頃の娘たちは、こぞって男の妻になりたがりました。娘もその家族も、あの手この手で躍起になって男の気を引こうとしました。  そのころからでしょうか。町に謎の疫病が流行り始めたのです。孫を男に食い物にされたと言いふらしていた年寄り女が、疫病にかかって死んでしまったのです。  年寄り女は、町長の母親でした。  孫娘もまた疫病にかかり、次に町長も、奥方も相次いで亡くなりました。  人々はパニックに陥りました。男の屋敷を焼き討ちしようと集まったのです。    しかし屋敷はもぬけの殻。焼き討ちに賛同した人たちは次々と病にかかって死にました。  怖れおののいた人々は教会に助けを求めました。  集まった町人たちの前で神父は言いました。 「祈りましょう。そして、生き残った者で遺体と住まいを焼き払うのです──」    男が姿を消してしばらくしてからのことです。  真夜中、私が寝ていると寝室の窓辺にあの方が佇んでいました。  驚いて起き上がった私に静かに近づき、男は言いました。 「美しきタマラよ、いずれそなたを迎いにこよう。その時までしばしのお別れだ」  そう言って男は優しげな眼差しを浮かべ、私の頬に触れました。    男が去った翌日、私は疫病にかかり、この世を去りました。  
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