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それから宇宙嵐のたびにシェンと会話した。わたしはネットワークから手に入れたコロニーの情報や、【赤い部屋】の女たちから聞いた話をシェンに渡した。彼は歓声をあげて受け取り、それからそんな自分を嫌悪するように口を閉ざすのが常だった。
仕事をしていても、ときどき、窓の外を眺めてしまうようになった。
そのときも、廊下に立ち止まって窓の外を見上げていた。この宇宙の闇のはるか向こうにシェンがいる。
と、背後に人の気配を感じ、何気なく振り向いた。
母だった。
彼女はゆったりとしたバスローブを身にまとい、気だるげにわたしに視線を向けた。
「……何を見ているの?」
「えっ、はっ、あ、と、遠くにいる人を」
ひっくり返った声で、つっかえつっかえ答えた。あまりにも思いがけないことで取り繕う余裕もなく、だから心の底にある言葉がそのまま転がり出てしまった。
母はふぅん、と首を傾けた。豊かな亜麻色の髪が、遅れてさらりと背中に流れる。
「そう」
母はわたしの隣に並んで、同じように外を眺めた。
こんな機会はもう、二度と訪れないかもしれない。そう思うと、ずっと気になっていたことが喉を駆け上がった。
「いつも、何を見てる、んですか」
お母さん、と呼んでいいか分からなくて、呼びかけることはできなかった。
母はちらりとわたしに目線を流し、また窓に向き直った。
「いつか来る人」
「……え?」
わたしがたじろいでいる間に、母はバスローブの裾を翻して歩き出してしまった。わたしはとっさに、その背中に声をぶつけた。
「もしも、わたしが外に行きたいって言ったら、どうしますか?」
母の足が止まる。彼女は振り返りもせずに答えた。
「別にどうもしないわ。メルニカと私は別の人間。支配されたければ私のそばに、そうでなければ宙の果てまで逃げなさい」
そのまま迷いなく廊下の向こうまで歩いていき、やがて角を曲がって姿を消した。
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