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「ねえ、このケーキ、覚えてる?」
妻の陽子が、手にした商品を僕に見せてきた。
「あっ、それって」
陽子が手にしているのは、ちょっと小さめなカップケーキ。
「懐かしいわよね」
「ああ、そうだね。思えば、あそこで食べて以来、口にしてなかったね」
忘れかけていたカップケーキのほんのりとした甘さが思い出される。
「今日はお天気も良いし、どこかでコーヒーを買って公園ででも頂きませんか」
「いいね、暖かいし、風もないから、そうしよう」
僕らは、その懐かしいカップケーキを四つ買い物カゴに入れて会計に並んだ。
スーパーを出て少し歩いたところにあるコンビニで、温かいコーヒーを四つ買い、帰り道の途中にある公園に立ち寄った。
緑の多いこの公園を一周する歩行路の所々に、テーブルとベンチが設置されていて、休日はピクニック気分で遊びに来る親子連れで賑わっている。しかし、今日は平日なのでほとんど人も見当たらない。
木漏れ日が優しく照らすベンチに腰を下ろして、テーブルの上にカップケーキとコーヒーを並べる。
僕の右隣に陽子が座り、左隣と正面には当然のように誰も座っていないが、そこにもカップケーキとコーヒーが置かれている。
「いつも、陽子は僕の右隣にいたね」
「そうですね。あなたの左隣には、奈保子さんがいて、正面には由彦さんが座るのが定位置でしたよね」
「そうか、あの頃もこんな風に座っていたんだったな」
「あのテーブルも、こんな柔らかな日差しが降り注いでいましたね」
僕はあの頃のことを、懐かしくも切なく思い返した。
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