いつもの席でカップケーキを

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◆◇◆◇◆◇ 「調子はどうだい」  僕は個室のドアを開けて、ベッドに横になっている奈保子に声をかけた。 「うん、ありがとう。今日は痛みも少なくて比較的楽なのよ」  奈保子の腕には点滴が挿さり、胸には心電図の端子が貼られ、何か異常があればすぐにナースステーションで気づけるようになっている。上腕部には、オピオイド鎮痛薬のパッチが日付を書き込まれた状態で貼られている。 「カップケーキを持ってきたよ。お茶の時間になったら一緒に食べよう」 「嬉しいな。何個買ってきてくれた?」 「言われた通り、四つ買ってきたよ。何で四つなのか、教えてもらってもいいかい」  昨日、奈保子から電話で『明日のおやつは四つ用意してきて』と言われていたのだ。 「最近ね、仲良くなった方がいてね。その方の旦那さんも交えて四人でお茶したくって」 「そうだったんだ。じゃあ、お茶の時間に会えるね。楽しみにしてるよ」  奈保子が"癌"を告知されたのは一年前の人間ドックでだった。すぐさま専門医を受診し、勧められるままに手術を受けた。しかし、想像以上に癌が広範囲に渡っており、切除は難しいとの判断でそのままお腹を閉じるしかなかった。  妻に残された時間。日ごとに疼痛が増していき、ついに日常生活にも支障が出始めた。主治医からの勧めもあり、奈保子と相談をして疼痛をできるだけコントロールして最後まで笑顔でいるために、緩和ケア病棟(PCU)への入院を決めたのが一ヶ月前のことだ。59歳、子供たちも独立し、これから夫婦二人で旅行やお芝居に行こうと話していたのに……。
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