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父の苦手なもの
「ピピピっピッピ、ピびぅぃーー」
「はい!もう一回!いつもそこだね 頑張って翼くん♪」
「はい! 青葉先生 もう一度お願いします」
父はリコーダーが苦手だ というか教科としての音楽を苦手にしている
5教科はほぼ満点だが音楽のテストは50点もとれない時もある
「おたまじゃくしがわかんないんだよぉー」
父には楽譜がよほど難しく見えているようだ
今週リコーダーの演奏テストがあるらしく私が先生として練習に付き合っている
私は父と逆で5教科はそこそこだが音楽は得意だ
「はい もう一回 さっきより安定してきたよ 翼くん♪」
「ありがとうございます! 青葉先生」
父は一生懸命だが私はかなり楽しんでいる
先生として父に教えるのはとても楽しい♪快楽だ
小さい頃私は沢山習い事をしていた
習字に公文に英会話にピアノ
どれも親の送り迎えが必要がない習い事ばかりだ
家に帰っても一人だったので私は誰かといる時間を自ら作っていたのだ
習い事のない日曜日は一人ずっとキーボードを弾いていたこともあった
演奏に夢中になっていれば時間が知らぬ間に過ぎていってくれた
私にとって音楽はそういう存在だった
「はい♪じゃあこれくらいにしよ 頑張ったね父さん」
「うん ありがとう 青葉ぁ」
生徒・先生ごっこが終わると父はいつもお願いしてくる
「青葉ぁ 今日も聴かせて」
「えー今日もぉ?いいよ♪」
苦手でも音楽が大好きな父は私のキーボード演奏を聴くのが好きだ
今父は「Summer」という曲にはまっている 今といってももう3か月はまっている
1曲弾き終わっても父は何度もアンコールをしてくる Summerのエンドレス演奏だ
おかげで私はもう楽譜なしでSummerを弾けるようになった 指が覚えてしまったのだ
演奏しながら私は父を見ている
父は瞳を輝かせて私の指を見ている
孤独を埋めるために弾いていた音は今父を喜ばせる音になった
不思議だなぁ
と私は思う 私が誰かを喜ばせることができるなんて 私には不思議だ
「青葉は本当凄いねぇ 青葉の演奏大好きだよぉ」
父が喜んでくれる 今それ以上に私を幸せにすることはない
私は今日も幸せだ
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