人を騙していた父

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人を騙していた父

 父は人を騙していた  私がそれに氣づいたのは父とスーパー「マキi」で買い物をしている時だった  「父さん あと何がいるんだっけ?」  「ええっとね・・・」  そう言って父は手書きのメモを見た  私も見るとメモの中に得体の知れないものがいくつか書いてあった  「レソコソ」  「ツジミ」  「ンース」  (れそこそ?つじみ??んーす???)  私は面白くなって父に聞いた  「父さんっ れそこそって何っ?」  「れそこそ? あぁこれはレンコンだよ」  「つじみは?」  「シジミね」  「んーすは?」  「ソースだよぉ」  「父さんってさ・・・」  父の顔から汗が(こぼ)れた  「カタカナのンとソ シとツの違いがわかんないの?」  「青葉ぁ 氣づいてしまったんだね・・・わかんないんだよぉおお」  そう言って父は白状した  私は面白くて笑った  聞くとそれらのカタカナを習う日に風邪で学校を休んだため父にはその違いが謎になったそうだ  それから父は「ン」と「ソ」 「シ」と「ツ」をどちらにも読めるように誤魔化して書いていたらしい かわいい  「ははは 翼くん帰ったら教えてあげるよ♪」  「はい! お願いします 青葉せんせぇ」  その日帰ってご飯を食べてから特別授業を父にした  「なるほどぉ ンとシは寝ててソとツは立ってるんだねぇ あと平仮名の んとし つの払いかたで見分けられるね」  父は父の感覚で違いを理解したようだった  そのあと父は何度も何度もそれらのカタカナを紙に書き始めた わざわざ色んな言葉や単語をカタカナで  が9時になって鉛筆を持ったまま父は寝てしまった  私は父を寝室に運ぼうと父を抱えた時 父の書いた一文が目に入った      「アオバ イツモ ソバニイテ シアワセ ナンダヨ」  私の心はあたたかくなった
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