私の虹

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私の虹

 例年より20日も早く梅雨入りした今年は毎日淀みなく雨が降っている  梅雨入りしても雨が降らない年もあるのに今年はちゃんと梅雨だ  雨は私を憂鬱にさせる  特に雨音で起きた朝などは最悪だ  今日はもっと最悪で激しい雨音は私を真夜中の3時に起こした  雨は私にあの日をフラッシュバックさせる  私が人生で一番孤独を感じた日...  母がいなくなって迎えた初めての私の6歳の誕生日  孤独なんて言葉すら知らなかったけど私はその意味を知った  あの日世界は私のことが見えていなかった  やみそうもない雨に私は()(たま)れなくなって 父の部屋にいった    激しい雨音などどこ吹く風で父は幸せそうに寝ていた  その寝顔と寝相は私を安心させた  父のベットに忍びこみ 父の胸に手を置いた 父のあたたかい体温と小さな鼓動は私の中のあの日を薄くしていく  私の孤独が溶けていくのがわかった  「あおば? どおしたの?」  いつもは寝たら決して起きない父が起きた  「ごめん 父さん 起こしちゃったね 雨がひどくて それで・・・」  父は私に抱きついてきた  「ほんとだ 凄い雨だね 一緒にねよう」  「ありがとう 父さん」  「ありがとう 父さん」  私は繰り返す 私の声を聞いてくれる人がいる  父は私の腕の中で少し動いて目を閉じたまま話を始めた  「ぼくも小さいころ 雨が嫌いだったんだよぉ・・・ひとりでいるのに雨たちはたくさん音を出すから 雨たちに僕は責められてる氣がして とっても怖かったんだよ」  「もう父さんは今は怖くないの?」  「青葉と暮らしはじめてから怖くなくなったんだよ 青葉のおかげ」  「私のおかげ?」  「青葉はぼくより雨が苦手だったからぼくが青葉を守りたいって思ったら 勇氣が出て 雨は怖くなくなったんだよ それにサボ太郎たちは雨好きだからね」  父のかわいいけれど優しい声は私を落ち着かせる  「鉄さんが言ってたんだけどこの世界に必要のないものはないんだって・・・いらない 欲しくないと思えることも 必ず意味があるんだって ぼくにはまだよくわからないけれど 僕は今青葉と暮らせてるから...そおなんだとおもう」  「私も...私もそれはわかる氣がするよ 父さん」  父はまたすやすやと寝てしまった  私は父の頭に顔を近づける  あの日の雨が良かったことがあるとすれば私に父をくれたことだ あの日産まれた父は今私の傍にいてくれている  「青葉起きて起きて」  私はいつのまにか寝てしまった 父の声に起きると父はいつもより瞳を輝かせていた  「虹 虹だよぉ しかも二つ!」  「ほんとだぁ」  雨上がりの朝の街に二つの虹がかかっていた  「ダブルレインボぉ はじめてみたぁ」  「私と父さんみたいだね」  「えぇ そお?ぼくたちはもっとくっついてるから 違うよぉ」  私は咄嗟に父を抱きしめた  「なんだよぉ 青葉ぁ」  「くっつこうと 思って」  No Rain, No Rainbow  雨なくして虹はかからない  父は私の虹だ 消えることない私の虹だ
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