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暗闇の中、伝は腕に顔をうずめてじっとしていた。体育座りで小さく縮こまった体は、まるで嵐が止むのを待つ人のように不安げに見える。どすどすどす。家中を行き交う足音が近付く度、見つからないかとどぎまぎする。伝はぐっと目をつぶって、懸命に息を殺した。足音の向こうにある海の音に耳を澄ませて、自分の中をその穏やかな音でいっぱいにする。そうすると気配が溶けて闇と一体化したような気になり、伝は自然と心地よさを感じた。まるですべての悪いことから守られているような、ここにいれば大丈夫だよと語りかけてくれるような静寂が、伝は好きだった。
バンッと勢いよく戸が開かれ、陽射しの中に仁王立ちする母の姿が浮かび上がる。その表情は明らかに怒っていた。
「ツトム! 来なさい!」
手首を掴まれ、明るい世界に引っ張り出される。そのまま畳の部屋を出て廊下を進み、リビングに連行された。座りなさい、と母はなお怒っている口調で言って椅子を指差す。大人しく座ると、母も向かいの席に腰掛けた。そしてテーブルに肘を置くと、真っ直ぐと伝を見て問いかける。
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