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「その怪我はどうしたの?」
問い詰めるような言い方に、伝は黙って俯く。眼鏡の奥の目尻には赤い痣が出来ていて、口の端には絆創膏が貼られていた。腫れた頬の赤さが色白の肌に痛々しく浮かび上がっている。
「言わなきゃわからないでしょ?」
母の口調はいっそう苛つき始めていた。微動だにしない伝に、深くため息を吐く。すると、祖母がリビングに入ってきて、二人を見るやいなや言う。
「どこにおった?」
「押し入れです」
母の答えに祖母は快活に笑い声を上げる。
「やっぱり海老沢の血じゃのう」
朗らかに言う祖母に、二人は揃って不思議そうな顔をした。
「海老は人生の大半を暗闇の中で暮らしとる。伝も暗闇におると落ち着くんじゃな」
豪快に笑う祖母とは対照的に伝の俯きは深くなり、テーブルの下の両手を握る力が強くなる。その表情はだんだんと曇っていく。
海老はーー。
その言葉に心がざらついていく。
海老、えび、エビ……エビはー。
ついに我慢できずに、伝は椅子から勢いよく立ち上がった。
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