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「えび好きなの?」
「え?」
「えび柄のハンカチなんて珍しいから」
膝に巻かれたハンカチは赤、青、緑とポップな色の小えびが何匹も散りばめられた柄だった。何げなく訊いただけだとわかっているのに、伝は苛立ちを抑えられず不機嫌につぶやく。
「持たされてるだけ」
「あ、そうなの」
伝がハンカチを睨むように見ていると、ふと小えびがぼやけていることに気付いた。意識するとそれは形を失ってただの色のかたまりに見える。はっとして視線を上げると、目の前の男の顔もぼんやりとしか見えず、目を細めてみても気休め程度にしか鮮明にならなかった。男の背後に続く道はなおさら不明瞭になっていく。急いで耳の後ろに触れるとやはり眼鏡の感触がなく、周りを見回してみてもよくわからない。
「ん? どうした?」
男の問いかけに自分の周辺の地面を手探りしながら答える。
「メガネが……」
「メガネ?」
「うん。転んだ時に外れたみたい」
え~? と言いながら、男は辺りを探し回る。伝は動くことができず、同じところを何度も手探りするしかなかった。やがて戻ってきた男が悩ましげにつぶやく。
「ないなぁ。もしかしたら海に落ちたかもしれない」
「えっ! どうしよう……」
眼鏡がない状態では暗くなっていく道を歩くことも難しい。
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