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◇ ◇ ◇
「なるほどな。だから、それ」
羽石は言いながら、膝に巻かれたえび柄のハンカチを見る。伝は黙って頷き、また俯いた。海はもう夕焼け色に染まりつつあって、二人の頬にその色を穏やかに映す。
「帰ったらお母さんに怪我が見つかって怒鳴られるし、もう嫌だ」
また涙が出てきそうになって、伝は空いている手でごしごしと目元を擦った。
「うーん。それはお母さんに正直に話した方がいいと思うけどな」
「でも、家のことをバカにされたって知ったら、お母さん悲しむよ」
そう言う伝に微笑んで、羽石はぽんぽんと頭を撫でる。
「ツトムは優しいな」
見上げると、夕暮れを背に羽石は優しい眼差しで伝を迎えてくれた。その視線が、手の温もりが、なぜだか安心感を呼ぶ。伝はきゅっと握る力を強めて、ぽつりとつぶやいた。
「本当は僕だって、えび柄以外のものがほしいし、エビフライも食べてみたいよ」
ざざぁと音がして、海面が揺れる。
「じゃあ、食べてみるか?」
驚いて顔を上げた伝の瞳に、夕焼けの色が瞬く。いたずらっ子のように笑った羽石の視線の先には、ファミレスの看板があった。
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