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【雅也】
息を切らしてアパートへ帰宅すると、母がスマホを片手に、玄関で待ち構えていた。
「よかった! さっき電話したんだよ? なんか近所の人から、『今日は暗くなる前に帰宅して。殺人犯が現れるから』なんて言われて……。怖いねえ。早く捕まればいいんだけど」
さっき恵里奈から聞いた話は、母には言わないでおくことにした。
とても信じてもらえそうにないし、僕だってまだ半信半疑なのだ。
「私、窓から見ちゃったことがあるの……。ピエロがポーン、ポーンって空を飛びながら、屋根と屋根の上を移動していくの。あんな動き、人間にはできない……」
僕が無事に帰宅したことを確認するために、恵里奈が電話をかけてきてくれた。
彼女は、これまでにあったことを詳しく教えてくれた。
彼女の話によると、満月の夜に亡くなった住民は、今までに五人いる。
ピエロは、満月の日に毎回現れるわけではない。もちろん曇りや雨なら姿を見せないし、現れても何も起きなかった日もあったという。
最初は、約一年前の五月に一人。
笛の音が気になった近所の人が、屋根の上で笛を奏でるピエロを見たと言う。
当然、警察に「不審者がいる」という通報が複数あったらしい。すぐに警察官が駆けつけたが、その時にはピエロの姿はなかった。
そして翌朝、その家に一人で暮らす老人が亡くなっていた。心臓発作だったらしい。
二人目は、その二ヶ月後の七月。
「近所迷惑だ」と、直接怒鳴った人がいたらしい。
その時、ピエロはこちらを見てニヤリと笑い、霧のように姿を消したという。「それはとても恐ろしい笑顔だった」と。
そして翌朝、その家の幼い男の子が亡くなっていた。誤飲による窒息死だった。
三人目は九月。
やはり、ピエロがいた家の女子高生が亡くなった。自殺だった。
この時、「さすがにおかしい」、「全て満月の日だ」と住民たちが騒ぎ始める。警察に相談する者もいた。
でも、「全て事件性がない」と取り合ってもらえなかったという。何しろ、警察官が駆けつける時には、いつもピエロの姿はないのだ。
四人目は十一月。
それは、僕に最初に連絡をくれた、「親友」の海璃の父だった。
笛の音が止んでしばらくした後、海璃の家から火が出たのを近所の人が見ている。海璃と母、弟は逃げ出したが、父だけが亡くなってしまうという悲劇が起きていた……。
その話には、僕もさすがにショックを受けた。電話をくれた時も、お葬式で会った時も、彼はあたたかく声をかけてくれた。
とても、そんな大きな傷を背負っているようには見えなかった。
そして――。
「五人目はね、今年の二月。晃希くんに言おうか迷ったんだけど……」
「……何?」
「それが、竜二くんだよ……」
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