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「この一番目の領地には、子供が多いので、陛下は子供を優先したのだと
思われます」「二番目の領地には、お年寄りが多くいらっしゃいますし
三番目の領地には、労働者が多く、怪我をしている人が多いと聞きました」
「陛下は、それらの事を、よく見たうえで、決められたのだと思います」
二人は、そう力説した、聞いている皆も、うんうんと、頷く。
「そう、陛下は、そこまで国民の事を把握していらっしゃるのね」
「はい、陛下の細やかな心遣いは、我々国民が、良く知っております」
蕗は、国王の慈悲深い眼差しを思い出した。
「良い国王様で、国民も幸せですね」「はい、陛下は、我々の太陽です」
「陛下無くしては、この国は、成り立ちません」
二人は、頬を紅潮させて、そう言った。
翌日、昨日出来上がった薬を、馬車に乗せ、二人の護衛付きで
カラジと蕗は、一番初めの、ハサラン卿が治めている、領地へ行った。
「これはこれは、蕗様、お待ち申しておりました」50代と見える
立派な髭を生やしたハサラン卿、自からが出迎えてくれた。
カラジと、ディグと、ビルドは、馬車から薬を降ろした。
ハサランは、家臣達に「直ぐに、領民の所へ」と、命じ
家臣たちは、薬の箱を持って、四方に散って行った。
このハサラン卿も、領民を第一に考えている様だと、蕗は感心した。
蕗は「薬が効かない程の、重傷者は、いませんか?」と、聞いた。
ハサランは「蕗様のお薬は、よく効くと伺いました、多分、殆どの者が
回復薬で良くなると思いますが、一人だけ、腕を骨折した子供がいまして」
と、眉をひそめて心配そうな顔で言う。
「では、その子の所へ行ってみましょう」と、蕗は言った。
「有難う御座います、これ、誰か蕗様を、その子の所へ、ご案内して」
「ははっ」近くに控えていた、若い兵士が「失礼します」と
カラジの横に座った。
蕗は、平民が暮らしていると言う、町はずれの一軒屋に行った。
「痛いよ~痛いよ~」と言う、泣き声がしている。
大きな馬車が停まった事に、驚いて出て来た、若い女性は、蕗の顔を見て
目に涙を溜め「蕗様、こんなむさ苦しい所へ、、」と、言って頭を下げた。
そこへ、涙でぐしゃぐしゃの顔をした、男の子が、顔を出した。
まだ5歳だと言うその子は、右手を板で固定され、三角巾で釣っていた。
木登りをしていて、木から落ちて骨折したと言う。
「足は、何とも無いので、歩きまわり、少しもじっとして居なくて
これでは、骨もくっつかないと、心配しています」
腕白坊主に、手を焼いている母親は、ため息をついた。
蕗は、笑って「まだ5歳ですものね~じっとしてろと言う方が、無理かも」
そう言って、その子の前に、しゃがむと「この手、元通りになったら
また、お母さんの、お手伝いが出来るよ」と言った。
「ほんと?」「ええ、何時までも、板がついたままじゃ、何も出来ないでしょ
少しの間、じっとしててくれる?」「そうしたら?」
「蕗が、この手を、元に戻してあげる」「じゃ、じっとしてるよ」
男の子は、乳歯が一本抜けている歯を見せて、笑った。
あの兵士を治した時は、結構時間が掛かったが、育ち盛りの子供の所為か
骨は、意外と早くくっついた、固定していた板を外して、蕗は言う。
「ほ~ら、もう痛く無いでしょ」「ほんとだ!!蕗様、有難う!!」
男の子は、そう言うと、母親の胸に飛びついて、抱いて貰った。
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