発展

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その、腰を抜かしている兵士の頭上を越え、高台に有るお城の足元 町の中央に有る広場に、カルルは着地した。 這いながら、広場の方へ眼をやった兵士は 見た事も無い、真っ赤な怪物の背から、若い女が降り立つのを見た。 丁度その時「終わった、終わった」「今日も働いたな~」 「さぁ、帰るとするか」賑やかに喋りながら、広場へ出て来た男達は 目の前に居る、怪物と若い女を見て、ぎょっと足を止める。 言葉も無く、立ちすくむ男達に、蕗は声を掛けた。 「バイロン様に、会いたいんですけど」その声で、やっと我に返った 一人の男が「バイロン様は、もう、お亡くなりになった」と、答えた。 「やっぱり?もしかしたら、間に合うかと思ったんだけど」 そう言う蕗に「貴女は、どうしてバイロン様を知っているんだ?」 と、その男が言う「ガノンさんに聞いたの」「ガノン様だって?」 いきなり男達は、蕗の傍に駆け寄り 「第三ラグア号は、沈んだんじゃ無かったのか?」と、咳き込むように聞く 「ええ、船は沈んだけど、乗組員は、全員無事よ」 「全員?じゃ、ルフゴも?俺の兄なんだ」若い男が、早口で聞く。 「ええ、ここに、皆の名前が書いて有るわ」 蕗が手渡したノートを、真ん中にして、皆は、頭をくっつけ 「有ったっ、弟だ」「俺の従兄弟だっ」と、歓声を上げる。 「全員無事だと言うんだ、そのノートは、帰ってゆっくり見ようじゃないか」 年嵩の男がそう言って「貴女様の、お名前は?」と、聞く。 「緑の国の、蕗と申します」蕗は、自分の名前を名乗った。 「蕗様、よくぞ、皆の無事を知らせて下さいました、どうか、我が国の 居住区迄、ご一緒して頂けませんか」「居住区?ここは、違うのですか?」 「はい、ここは、守るのには良いと、お城は有りますが 岩を掘ったり、鉄を製造するだけの場所なんです」 「さぁ、蕗様、ご一緒に」皆は、蕗を港に連れて行き そこから、小型の帆船に乗せて、東南へと向かう。 カルルも、その後を追った。 「あの大きな動物は、蕗様の乗り物なのですか?」 皆は、付いて来るカルルを見て、そう聞く。 「あの子は、カルルって言うの、私が、卵を見つけて育てたドラゴンなのよ」 「ドラゴン?身体は大きくて、怖い感じですが、大人しいですね」 「ええ、何もしない人には、懐きますが、怒ると、火を吐きます」 「火、、を?」「吐く?」皆は、ぶるっと、体を震わせた。 「大丈夫よ、今まで火を吐いたのは、一度きりだから」蕗はそう言いながら あの時の、闇の魔導士の事を思い出した。 ガノンから、バイロンの様子を、詳しく聞いた蕗は バイロンが、闇の魔導士グラディスの最後と、同じ様な症状だと知った。 年齢からしても、さほど長くは生きられまい、そう思ったので 船が出来るのを待たず、こうして、見に来たのだが、遅かった様だ。
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