貴族になった蕗

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「蕗様は、まだこちらへ来たばかり、いきなり、こちらの生活を 全て押し付けると言うのは、あまりにお可哀そうです。 暫くは、お心のままにさせてあげては?」 「し、しかし、、」「では、お側付きのカラジ様、侍従長のレイモンドさん 侍女長の私、花番頭のロブさん、薬師のお二人、コック長のデルフさん 馬番のチャドさん、この八人が、一緒にお食事に参加するというのは?」 「それは良いな、食事をしながら、その日一日の仕事の割り振りや 申し送りや、反省なども、一緒に出来る」カラジも賛成した。 「そう言う事でしたら、、、しかし、蕗様と、ご一緒に食事など 緊張して、味も分からないのでは」と、レイモンドが心配すると 「まぁ、皆も、そのうち慣れるさ」カラジは、のんきな声で言った。 皆の話を聞きながら、蕗は、黙々と魚のフライや、牡蠣の酢の物 野菜と豆が入ったスープ煮みたいな物を、ぺろりと平らげた。 そして「蕗様、お味の方は?」と、聞きに来たデルフに 「とっても美味しかったわ、ご馳走様」と、にっこり笑って言う。 マーラたちの話に、参加していたカラジは、まだ半分ほど 緊張のあまり、途中で、スプーンを落として、ワタワタしていたチャドも まだ、半分ほど残っていた。 レイモンドは、蕗が食べる、あまりの速さに眼を剥いていたが デルフは、大喜びで「では、デザートを」と、厨房へ行き 赤や黄色の野苺を飾った、可愛いケーキと、紅茶を持って来た。 「わぁ~可愛い‼食べるのが、勿体ない位ね~」蕗は、大喜びした後 本当に美味しそうに、そのケーキを食べた。 「あんなに大きく、お口を開けられて、」レイモンドは、また目を剥く。 「うふふ、でも、とっても、お幸せそうですよ」マーラは、そう言った。 その時、屋敷の外が騒がしくなった。 「来たか」そう言ったレイモンドは、部屋の外に居た侍従と侍女たちに 「用意は良いか?」と聞く「はいっ」侍従が、屋敷の扉を開けると どっと、大勢の人が、荷物を山の様に運び込み、侍従や、侍女の言葉に従って広い通路一杯に、その品物を広げ始めた。 「なにが始まったの?」お茶を飲み終わった蕗は、腰を上げて見に行く。 大急ぎで、食事を終えた、カラジとチャドも、その後に続いた。 「蕗様、まず、お靴から」マーラがそう言って 一番端に居る、男の前に有る椅子に、蕗を座らせた。 「靴屋のサージと申します」男は、帽子を取って、丁寧に頭を下げた。 そして、四角い台を椅子の前に置くと、そこへ、足を乗せる様にと言い 蕗の足のサイズを計り、後ろの袋の中から、一足の靴を選り出して履かせた 「いかがでしょう」蕗は、立って足踏みしてみたが 靴は、蕗の足に、まるで吸い付く様にぴったりと合っていて、軽かった。 「良いわ、歩きやすそう」「では、そのサイズで、布靴は各色二足ずつ 外履きの皮靴は、白黒茶、各二足、ブーツも同じ色で二足ずつね」 マーラが、てきぱきサージに命じ、サージは、必死でメモを取る。 カラジが「蕗様には、この靴しかないんだ、出来上がった物から 順に持って来てくれ」と、頼み 「分かりました、有難う御座いました」と、サージは頭を下げたが 「はい、次」蕗は、その隣に連れて行かれる。 次は、下着ばかりが並んでいて、マーラみたいな、小太りの小母さんが居たがそこでもマーラは、次々に買い求め、小母さんは、追加分のメモを取り 侍女たちは、買った品物を、蕗の部屋へ運ぶ。 その隣は、色とりどりの服が並んでいる所だった。 「蕗様、この度は、お声かけ下さいまして、有難う御座います」 と、挨拶しかかった細身の女性には構わず、マーラは そこに掛かっていた服を、全部買った。 「こ、これはこれは、誠に有難う御座います」細身の女は、大喜びで 「これからも、宜しくお願い致します」と、言うと レイモンドの所へ行って、お金を貰い、弾むような足取りで帰って行った。 次も、服屋みたいだったが、前の服と違って、高級な服だった。 艶やかなシルクの生地で作られていて、刺繍がふんだん施され レースの飾りも豪華だった。 『これって、中世のヨーロッパの王女様が着る、ドレスだよね こんな物、日本人の私に、似合う訳無いわ』蕗はそう思ったが 中の一着を、蕗に当てた、お洒落な格好をした女は 「これなど、蕗様にぴったりで御座います」と、言う。 見ていた、マーラも侍女達も、うんうんと、頷く。
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