貴族になった蕗

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そこへ、チャドが知らせたのか、薬師のラフルとマディーが ウェルを連れてやって来て「ロブさん、ご苦労様です」と言って 花が入っている、三つの袋を、一つずつ持って行った。 蕗も一緒に、薬剤室と書かれた部屋に付いて行く。 そこには、大きな石臼が有り、臼を回す取っ手には、穴が開いていて 長い棒が差し込まれていた、蕗が知っている臼とちょっと違う。 「この臼で、花を擂り潰しまして、布袋に入れて、絞ります」 と、桶の上に板を渡した物を見せた。 蕗が、子供の頃に見た事が有る、餡子を作ったり でんぷんを作る道具に似ていた。 「早速、明日から、薬作りを始めます、蕗様も、お時間が出来ましたら 此処へお越し下さいませ」マディーが、そう言った。 「分かりました、ここに有る、この小さな瓶は、何に使うの?」 蕗は、何個も重ねられている箱に、きっちりと並べられた 沢山の小瓶を指差した。 「出来上がった、回復薬を入れる瓶で御座います」 「これ、薬瓶なんだ」「はい、先ほど、煮沸消毒が終わった所です」 「こんなに沢山?お疲れ様でした」蕗のねぎらいの言葉に 「有難う御座います、でも、これが私共の、仕事ですから」 二人はそう言ったが、嬉しそうな顔は、隠せなかった。 「蕗様、ここでしたか、そろそろ入浴の時間で御座いますよ」と マーラが、迎えに来た。 入浴、さすがに疲れて来ていた蕗には、嬉しい言葉だった。 マーラに連れて行かれた、浴室には湯が入っていない、浴槽が有り 傍には、キャラとサイラが、腕まくりして待っていた。 「え?」驚いている蕗の服を、イスラが脱がせ、裸にする。 「ま、待って、」慌てる間もなく、キャラとサイラが、空の浴槽に蕗を入れる そして、シャワーを掛けると、二人は、両手に泡を一杯立てて 蕗の身体を、頭の天辺から、順に洗い始めた。 「あ、あ、私、一人で出来ますから」蕗は、やっと、そう言ったが 「蕗様、貴族様が、自らの手で洗う事では有りません」と言われ 体の隅々まで、洗いあげられ、シャワーで、泡を落とすと 「さぁ、こちらへ」と、隣りに有った、湯が満々と張られた 浴槽に、入る様に指示される。 浴槽の縁は、すべすべの石で囲まれ、丁度良い湯加減の湯は 何やら良い香りがする。 自分で自分の身体を、洗う事が許されないなんて、貴族って不便ね~。 そう思ったが、この良い湯で、体の芯まで解される。 「ああ、良い湯だわ~極楽、極楽」 若い娘たちに、体を洗われた、さっきの恥ずかしさも、消えてしまう。 湯から上がると、待ち構えていた、侍女三人に、身体を拭きあげられ 髪を乾かされ、細身の店主から買った、淡いピンクの服を着せられて 隣りの鏡が有る部屋へ連れて行かれる。 まるで、人形になったような気分だ。 隣りの部屋には、マーラが待っていて、椅子に座らせると 蕗の髪を、丁寧に梳き「なんて綺麗なんでしょう」と、感嘆の声を上げる。 そう言えば、カラジの母も、蕗の髪を見て驚いていた。 「黒い髪って、珍しいの?」蕗がそう聞くと 「はい、この国には、一人も居ません」と、マーラは言う。 「ダニエルさんって言う人も?」「はい、ダニエルさんは、イギリスと言う 国から、来たそうで、髪は金髪で、目は灰色です」 イギリス人?しかも100年前の、、どんな人だろう、ますます興味が湧く。
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