貴族になった蕗

11/12

58人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
屋敷の北口から、外に出ると、花番頭のロブの孫、トルヤが 小型の荷車の様な物の傍に立っていて 「蕗様、おはようございます」と、挨拶をした。 「おはよう、トルヤだったわね」蕗がそう言うと 「はいっ」トルヤは、名前を憶えて貰えていた事が、嬉しかった様で まだ、あどけなさが残る顔を、綻ばせた。 「ここへ」と、カラジとトルヤに手を取られて 蕗は、その荷車の様な物に乗る「これで、行くの?」蕗がそう聞くと 「はい、花畑の中の道は、狭いので、馬車は、通れません。 これで移動する事になります」トルヤは、顔に似ない力で その荷車を押しながら言った。 蕗は、荷車の前を歩いているカラジに「ねぇカラジ、王様は、先日の戦って おっしゃられていたけど、赤の国とも、青の国とも、良好な関係だと 言っていたでしょ、何で、戦いが有るの?」と、疑問に思った事を聞く。 「実は、三国の他に、あの山の向こうに、白い国が有りまして」 「白い国?」「はい、雪と氷しか無い国ですが そこには、恐ろしい闇の魔導士が、住んで居るんです」 「闇の魔導士?」「はい、150年ほど前に、ふらりと現れた老人に 見分けの滝は、闇の魔導士だと告げました。 闇の魔導士は、驚く人々を襲い、食料や衣料などを奪い 兵士たちに追われて、白い国に、逃げ込んだんです。 いかに強い兵士達とは言え、雪と氷に阻まれて、深追いする事は出来ません。 その後、闇の魔導士グラディスは、一匹の赤いドラゴンを、手に入れました。 「ド、ドラゴン?」「はい、この続きは、また時間が有る時に、、」 荷車は、ロブが待っている場所に着いていた。 そこは、あの大樹が有る所で、その先は、高い崖になっていた。 「蕗様、ようこそ、これが、問題の花で御座います」早速、ロブがそう言って 問題の花畑を見せた、確かに、まだ柔らかな土に 植えたばかりと言う株が、並んでいたが、他の花に比べると、元気が無い。 「どうしてここだけ、こんな事に?」蕗がそう聞くと 「先日の戦の時、ドラゴンに踏まれたんです」トルヤが、そう答えた。 ドラゴンって、本当に居るんだ、蕗は、そう思いながら、畑の様子を見る。 「ドラゴンって、大きいの?」「はい、足だけでも、この位」と トルヤは、両手を広げた、足だけで、そんなに大きいなら 体の重量も、相当なものだろう、その重さで、畑を踏んだとすれば、、 「この花の株、全部掘り上げて頂戴」「えっ?」トルヤが驚く。 だが、ロブは、他の花番達も呼び、直ぐに、蕗の言う通りに 花の株を掘り上げさせた「出来ました」「じゃ、畑を耕して頂戴」 「結構、深く耕したのですが」トルヤがそう言う。 「もっと深くです」「はい」暫く掘っていた花番達が、掘る手を止めた。 それまで、自分達が耕した、その下も、ドラゴンの足で踏まれた所為か 土は固くなっていた「これが、花が水を吸い上げられない原因、、」 ロブが、唸るような声で言った「そうです」「皆、もっと深く耕してくれ」「はいっ」皆は、勢いよく掘り、畑は、前より、ふかふかになった。 深く耕された所に、掘り上げていた株を戻し、植え付けが完了した。 蕗は、花番達が運んで来た、水が入った桶から、柄杓で水を汲み 『春雨の様に、、』と、願い乍ら、植えられた花に向かって、水を撒いた。 水は、春雨の様に細かな粒となり、花や葉っぱをしっとりと濡らした。 「おお~っ」見ていた花番達が、驚きの目を瞠る。 「花たちが、、喜んでおる、、」ロブが、ぽつりと呟いた。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加