仕事に励む蕗

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仕事に励む蕗

馬車に揺られて行く蕗は、まだ不安だった。 いくら、この国には、魔法の力が満ちているとはいえ 普通の人だった自分が、ただ願っただけで作られた薬で 怪我をした人が、治せるものだろうか。 もし駄目だったら、、、 皆は、がっかりするかも知れないけど「御免なさい」と、謝るしか無いわ。 そうよ、私、昔から、謝る事だけは得意だったもの。 今までもそうだったように、最後は、そう腹を括る。 馬車は、広いグランドの様な土地を囲むように建っている、建物の前に着いた 【国軍兵舎】と、緑色の文字で書かれた、立て看板が有る。 「癒しの魔導士、蕗様だ」と言う、カラジの声に 門の前に立っていた、番兵二人が、さっと門を開ける。 馬車は、建物の正面まで進み、そこで蕗は降りた。 建物の中から、バラバラと出て来た、同じ服を着ている男達が ぴしっと、玄関の両脇に立ち、胸に手を当て、蕗達に頭を下げる。 最後に出てきた男性が「これは、これは、蕗様、ようこそ お待ちしておりました、私は、病院長のセーバンと申します」と、挨拶をする「怪我をした人たちは?」「こちらで御座います」 蕗は、両側に立っている皆に、軽く会釈しながら、その男の後に付いて行った 長い廊下の先に「病室」と、書かれた部屋が有った。 その部屋に入った蕗は、思わず、目をそむけた。 体のあちこちに怪我をした兵士が、大勢、ベットに横たわっていたのだ。 だが、その兵士達は、部屋に入って来た蕗を見て 全員が、縋るような、安堵した様な顔をした。 「ラフル、マディー、私には、まだ、どんな状態が治せるのか よく分からないわ、二人の経験で、薬を飲ませて頂戴」「はい」 二人は、傷の具合を見て、四倍に薄めた薬や 三倍に薄めた薬を、兵士達に飲ませた。 驚いた事に、薬を飲んだ兵士は、たちまち怪我が治り 元気な声で、蕗にお礼を言ったり、笑い合ったりする様になった。 「う、そ、、」蕗の方が驚いて、目をぱちくりさせる。 蕗が作った回復薬は、病院長が驚くほど、良い出来だった様だ。 「蕗様、この人を見て下さい」マディーが、一人の男の腕を持って 蕗を呼んだ、その男の腕は、酷い火傷で、ただれていた。 「ど、どうしたの?これ」蕗が驚いて聞くと 戦いの中、ドラゴンの羽根が起こした風に、吹き飛ばされたが 運悪く、自分達のキャンプを張っていた傍に落ち 焚火の中に、腕を突っ込んでしまったのだと言う。 「可哀想に、随分痛んだんでしょうね」蕗はそう言うと 三倍の薬を、その火傷の傷を洗う様にかけ 「治れ、治れ」と、その腕に、意識を集中させた。 すると、ただれていた火傷の傷は、すっかり消えて、元の腕に戻った。 「わぁ~っ」見ていた皆が、歓声を上げ 「蕗様、お見事!!」病院長も、手放しで喜ぶ。 火傷が治った兵士は「蕗様、、、」と、喜びの涙で その先の言葉は出せなかった。
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