仕事に励む蕗

5/8

58人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
その頃になって、息を切らせたディグとビルドが走って来て 蕗の姿を見て、ほっとし「遅くなって、申し訳有りません」と謝った。 「あら、貴方達は、まだ来たばかりで、着替えも、していないじゃない。 これ位の事、何でも無いわ、さ、ゆっくり部屋で休んでいて」 蕗はそう言うと、薬剤室へと消えた。 唖然としている二人に「蕗様は、我々が考えている様な、お方では無いのだ。 突拍子も無い事をなさる、お二人も、よく気を付けて下さい」と レイモンドが言った。 二人は、蕗の警護は、かなり困難になるかも知れないと、覚悟した。 その蕗は、薬剤室に入って、目を瞠っていた。 薬剤室の壁が、取り払われ、隣りの部屋と一つになっていたからだ。 その隣の部屋にも、大きな石臼が有り、擂り潰した花を絞る道具も揃っている そこへ、知らない男達が、10人程居て、蕗を見ると、一斉に頭を下げた。 「ラフル、これは?」「臼一つでは、到底間に合わぬと、緊急用の部屋を 解放しました」「この者達は、さっき雇い入れた者です」マディーがそう言う 「そうでしたか」蕗は、皆の前に行くと 「皆さん、苦しんでいる人々を救うために、頑張りましょう」と、声を掛けた 「ははっ」皆は、力強く、声を揃えて返事をした。 そこへ、花番達が、次々に、リフの花を運び込んで来た。 「さぁ、皆、やるぞっ」「おお~っ」二台の臼が、大きな音を立てて回り 擂り潰された、花を絞る者、臼を交代で回す者 蕗が魔法を掛け、回復薬になった物を、ラフルとマディーが薄め それを、小瓶に詰める者、その瓶を、消毒する者と、分担作業で 続々と、回復薬が出来上がる。 「瓶が足りなくなりそうだ、誰か、大急ぎで買って来てくれ」 マディーが、薬剤室のドアを開け、大声で叫ぶ。 「俺、行って来ます」チャドが駆け出し、馬車を走らせる。 入れ違いに、城からの馬車が来て、書簡をレイモンドが受け取った。 「何です?」マーラが覗き込む。 「出来上がった薬を、どこへどれだけ振り分けるかと言う、指示書だ」 その指示書には、それぞれの貴族の領地の人口に合わせて 配布する薬の量と順番が、指示されていた。 戦争の様に忙しい、薬剤室の半日が終わり 「皆さん、お疲れ様でした、明日も、お願いします」と言う、蕗の言葉と その日の賃金を、レイモンドから貰った人達は、家へと帰って行った。 臨時で雇い入れた、花番達にも、同じ様に賃金が支払われた。 夕食は、こんがり焼いた魚の塩焼きと、子羊の香草焼きが、美味しくて 「ほっぺが落ちそう」と、蕗が喜んだので、デルフは、嬉しそうだった。 食後の、デザートを食べている蕗に「お城からの、指示書が届きました」 レイモンドは、そう言いながら、蕗に見せた。 「この順番通りに、薬を渡せば良いのね」「左様でございます」 「じゃ、今日、出来た分は、この三領地に行く事になるわね」 蕗は、一番から三番迄の貴族の名前が書かれた、欄を見て言った。 「はい」「この順番は、誰が決めたの?」「えっ」 思いがけない言葉に、レイモンドは、言葉に詰まった。 「多分、国王陛下では無いかと」ディグが助け舟を出した。 「ふ~ん、力のある貴族が、先と言う事は無いでしょうね」 「そう言う事は、絶対に有りません」ビルドは、きっぱりと言った。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加