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その頃になって、息を切らせたディグとビルドが走って来て
蕗の姿を見て、ほっとし「遅くなって、申し訳有りません」と謝った。
「あら、貴方達は、まだ来たばかりで、着替えも、していないじゃない。
これ位の事、何でも無いわ、さ、ゆっくり部屋で休んでいて」
蕗はそう言うと、薬剤室へと消えた。
唖然としている二人に「蕗様は、我々が考えている様な、お方では無いのだ。
突拍子も無い事をなさる、お二人も、よく気を付けて下さい」と
レイモンドが言った。
二人は、蕗の警護は、かなり困難になるかも知れないと、覚悟した。
その蕗は、薬剤室に入って、目を瞠っていた。
薬剤室の壁が、取り払われ、隣りの部屋と一つになっていたからだ。
その隣の部屋にも、大きな石臼が有り、擂り潰した花を絞る道具も揃っている
そこへ、知らない男達が、10人程居て、蕗を見ると、一斉に頭を下げた。
「ラフル、これは?」「臼一つでは、到底間に合わぬと、緊急用の部屋を
解放しました」「この者達は、さっき雇い入れた者です」マディーがそう言う
「そうでしたか」蕗は、皆の前に行くと
「皆さん、苦しんでいる人々を救うために、頑張りましょう」と、声を掛けた
「ははっ」皆は、力強く、声を揃えて返事をした。
そこへ、花番達が、次々に、リフの花を運び込んで来た。
「さぁ、皆、やるぞっ」「おお~っ」二台の臼が、大きな音を立てて回り
擂り潰された、花を絞る者、臼を交代で回す者
蕗が魔法を掛け、回復薬になった物を、ラフルとマディーが薄め
それを、小瓶に詰める者、その瓶を、消毒する者と、分担作業で
続々と、回復薬が出来上がる。
「瓶が足りなくなりそうだ、誰か、大急ぎで買って来てくれ」
マディーが、薬剤室のドアを開け、大声で叫ぶ。
「俺、行って来ます」チャドが駆け出し、馬車を走らせる。
入れ違いに、城からの馬車が来て、書簡をレイモンドが受け取った。
「何です?」マーラが覗き込む。
「出来上がった薬を、どこへどれだけ振り分けるかと言う、指示書だ」
その指示書には、それぞれの貴族の領地の人口に合わせて
配布する薬の量と順番が、指示されていた。
戦争の様に忙しい、薬剤室の半日が終わり
「皆さん、お疲れ様でした、明日も、お願いします」と言う、蕗の言葉と
その日の賃金を、レイモンドから貰った人達は、家へと帰って行った。
臨時で雇い入れた、花番達にも、同じ様に賃金が支払われた。
夕食は、こんがり焼いた魚の塩焼きと、子羊の香草焼きが、美味しくて
「ほっぺが落ちそう」と、蕗が喜んだので、デルフは、嬉しそうだった。
食後の、デザートを食べている蕗に「お城からの、指示書が届きました」
レイモンドは、そう言いながら、蕗に見せた。
「この順番通りに、薬を渡せば良いのね」「左様でございます」
「じゃ、今日、出来た分は、この三領地に行く事になるわね」
蕗は、一番から三番迄の貴族の名前が書かれた、欄を見て言った。
「はい」「この順番は、誰が決めたの?」「えっ」
思いがけない言葉に、レイモンドは、言葉に詰まった。
「多分、国王陛下では無いかと」ディグが助け舟を出した。
「ふ~ん、力のある貴族が、先と言う事は無いでしょうね」
「そう言う事は、絶対に有りません」ビルドは、きっぱりと言った。
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