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一人暮らしをしていると、恐ろしい程の孤独感に、苛まれる時が有った。
その辛さを知っている蕗の言葉だからこそ、あの老人も、心を開いてくれた。
どんなに辛い事も、一つの経験として、同じ様な境遇の人の心に
寄り添う事が出来るのだ、蕗は、その事に気が付いた。
蕗のこれまでは、明日どう生きようかと言う、切羽詰まった物で
そんな事を考える、余裕など無かった。
これからは、困っている人の為に、この経験を生かせと
神がさまが、此処へよこして呉れたのかも知れない、そう思った。
三番目の領主は、ラチェル卿と言う、白髪頭の、お爺さんだった。
「こんな所まで、来て下さるとは、誠にありがたい事で御座います」と
柔和な笑みを見せる。
そこでは、怪我をしている人が多く、蕗は、ずらりと並んで待っている
怪我人たちを、片っ端から、治して行った。
自力で来れず、担架に乗せられて、運ばれて来る者も居た。
「どうしたの?」「草刈りをしていて、毒蛇に噛まれました」
「直ぐ、噛まれた上を縛って」「はいっ」
一緒に来た人が、足の噛まれた上を強く縛る。
蕗は、噛まれた箇所に、口を付け、毒を吸い出した。
「ふ、蕗様っ」カラジや、二人の護衛が、悲鳴を上げる。
それに構わず、何度か、吸い出して口を漱ぐと、そこへ一番濃い薬を掛け
手をかざして、毒が消える様にと願った。
青黒くなっていた足は、見る見る健康な、元の色に戻り、傷口も塞がった。
「もう、大丈夫ね」蕗がそう言うと「有難う御座います、有難う御座います」
その農夫は、涙を零して、蕗にお礼を言った。
固唾を飲んで見守っていた、周りの人々から
わぁ~っと言う、喜びの声が上がり
「あの汚い農夫の足に、蕗様が、口を付けられた」と言う
驚きの声も有ったが、その位の汚れなど、蕗には何でも無い事だった。
三つの領地を回った蕗は、屋敷に帰って、昼食を取ると
直ぐに薬剤室に行って、朝早くから、花を擂り潰し、絞って出来ている液に
魔法を掛け、回復薬にしていく、出来上がった回復薬を
ラフルとマディーが、三倍、四倍と薄め、それを、片っ端から
瓶に詰めて行く。
出来上がった回復薬は、玄関先まで侍従たちが運び、チャドの馬車に積み込む
「蕗様、お疲れでしょう、この分は、明日と言う事にしましては」
レイモンドと、マーラはそう言ったが「一刻も早く、皆に届けたいの」
蕗はそう言って、こちらも大量に薬を積み込んだ、大きい馬車で
御者を務めるカラジと、二人の護衛を連れて、次の領地へと向かった。
目が回るような忙しさも、その後の三日で、どうにか片が付き
蕗は、ほっと一息入れた。
そんな蕗の所に、王宮から、呼び出しの書状が届いた。
三国の、王が集まる、国王会議が有るから、蕗も出席する様にと、言うのだ
「何で、私が、国王様達の会議に行くの?」
「おそらく、赤の国と青の国に、薬を送る相談でしょう」カラジがそう言う。
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