赤の国と青の国

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橋の向こうでは、もう赤の国の住人たちが、道の両側にずらりと並んで 蕗達を出迎えていた。 「蕗様~」「蕗様~」と言いながら、手を振る群衆の後ろには 石とレンガで造られた、かっちりとした家が並んでいた。 まず、王様に挨拶しようと、王宮まで行くと 門の外で、もうマンセルが待っていた。 馬車から降りる蕗に駆け寄り、自ら手を取って馬車から降ろす。 「マンセル様、もったいない事を」と、蕗が恐縮すると 「こんなに早く、、よく来て下さいました」と 嬉しさを隠しきれない笑顔で言う。 「薬は、後ろの馬車に積んでおります」と、蕗の馬車の後ろから 付いて来ていた、チャドの馬車を指差す。 マンセルは、後ろを向き「皆の者、あの馬車の薬を、頂きなさい」と言った。 「ははっ」直ぐに数名の家臣が、チャドの馬車に駆け寄り 薬を、貰うと、街の方へ運んで行く。 「少し、お休みなさいますか?」マンセルはそう言ったが 「少しでも早く、診たいので」と、蕗は、そのまま、また馬車に乗り 回復薬では治らない者が居ると言う場所へ、案内して貰った。 集会所みたいな所に、集められていた、その者達の、殆どが 火傷をしていて、皮膚が真っ赤にただれていた。 蕗は、片っ端から、治していく。 「おお、こんなに綺麗に治った」男達は、嬉しそうに、手や足を撫でて 蕗に、感謝の言葉を言う、その中に 機械に挟まれたと、手がグローブの様に腫れている人も居た。 蕗は、レントゲンの目で見た後「良かった、骨には異常は無いわ」と 嬉しそうに言うと、真剣な目で両手を、その手に当てた。 ゆっくりと腫れが引いて行き、青黒かった色も、もとの肌色になる。 「蕗様、もう痛みも有りません、本当に有難う御座います」 その男は、涙ぐんでそう言った。 「良かった、また、お仕事頑張って下さいね」「はいっ」 最後に、深い切り傷が治らずに、化膿している者達を診る。 どの傷も、金属で切った物だと言う、蕗は、最も濃い薬で その傷口を洗い、両手をかざして「治れ、治れ」と一心に願う。 やがて、傷口は塞がり、跡形も無く、綺麗に治った。 「凄い!!完璧ですね」一緒に付いて来たマンセルの家臣が、目を瞠る。 全ての負傷者を治して、集会所の外に出ると 「蕗様、私にもお薬を」「どうか、この私にも」と言う、人々が わぁっと蕗を取り囲んだ、ディグとビルド、カラジとチャドも マンセルの家臣と共に、蕗を守ろうと、群衆の前に立ちはだかる。 蕗は、入り口の階段に立つと「皆さま、薬は、毎日三箱ずつ 緑の国から、送られてきます、今日が駄目でも、明日か、その次の日には 必ず、皆様の元に、届きます、焦る気持ちは、よく分かりますが どうか、今しばらく、辛抱して、待っていて下さい」と、言った。 付いて来た家臣の一人も「よく聞け、緑の国では、我々の為に 夜を徹して、薬を作っていると聞いた、蕗様のおっしゃられた通り もう少し待てば、皆の所にも届く、赤の国の国民として 恥ずかしくない態度で、待っていてくれ」と、言った。 人々は、夢から覚めたような顔になり、四方へと散って言った。
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