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だが、いくらも歩かぬうちに、もう腰が怠くなって、歩けなくなった。
近くに有った、石の上に腰掛けて、休憩し、また足を進める。
少し歩いては、休憩する、と言う事を繰り返しているうちに
薄暗かった樹海は、暗くなって、足元が見えなくなった。
蕗は、懐中電灯を取り出し、足元を照らしながら進む。
辺りの空気が湿っぽくなり、びっしりと苔が付いた石が
ゴロゴロとして来た、やっと樹海らしくなったわ
これから、もっと奥に行かなくっちゃ。
ガラケーを取り出して見る、もう、樹海に入って、2時間近く経っているが
休憩が多かったので、それ程、奥へは行けていない筈だ。
そう思いながら、苔むした岩にビニールを敷き、そこへ腰かけて
後ろの木にもたれ、うとうとした。
ほんのちょっと寝るだけ、と思っていたのに、目が覚めたら
もう、10時になっていた「いけない、早く奥へ行かなくっちゃ」
立ち上がった蕗は、また歩き始めたが、変な格好で寝た所為か
腰に強烈な痛みが走る「薬が切れて来たんだ」蕗は、薬を取り出し
「空きっ腹に飲んだら、胃に悪いな」と、独り言を言い
「いやだ、もう死ぬんだから、胃に悪いなんて、関係無いわ」と、苦笑し
「薬を飲むのに、お茶を買うなんて」と
また、どうでも良い事を思いながら薬を飲んだ。
暫く、じっとしていると薬が効いて来て、腰の痛みが無くなった。
「よし、今の間に急ごう」蕗が、急いで足を踏み出した途端に
岩の上の苔で、足を滑らせ、ばったりと両手をついた。
持っていた鞄が、どこかへ飛んで行って、見えなくなった。
起き上がった蕗は「どこも怪我はしていないわね、私、昔から転ぶのだけは
上手だったからね~」と、独り言を言い、無くなった鞄は、もう諦める。
「携帯も入っていたけど、もう要らないわ」杖と、懐中電灯さえ有れば良い
それより、早く死に場所を探さないと、先を急ぐ。
だが、頭がぼ~っとして来た、薬が効いて来たので、眠気も襲って来たのだ。
意識は、朦朧としながらも、足だけは進む、足元の岩が無くなり
平らな、草だけになったからだ。
突然、カッ、カッ、カッと言う音が前方からして来て、辺りの空気が震える。
「な、何?」蕗が、懐中電灯を、その音の方に向けると「わぁっ」
目の前に、馬の顔が、ぬっと現れ、真っ黒な影が、蕗の頭上に被さって来る。
「きゃぁ~」悲鳴と共に、身体が、ふわっと宙に浮いたと感じた所で
蕗の意識は消えた。
小鳥のさえずりに、目を覚ました蕗は
丸太を組んで作られた天井や、窓の外に広がる空を目にして、飛び起きた。
しまったっ、助けられてしまったんだ、完全だと思った自殺は、失敗した。
どうしよう、蕗はうなだれた。
その蕗の鼻に、香ばしい魚の焼ける匂いがして来た。
お腹が、ぐ~っと鳴る、と同時に、コンコンと、入り口のドアがノックされ
「はい」と言うと、中年の人の良さそうな女性が、入って来たが
その姿は、まるで、テレビで見たアニメに出て来る様な
若い子がやっている、コスプレとか言うので見た事が有る
何時代か分からないが、とにかく日本では無い、古い時代の服装をしていた。
その女性は、蕗に何か言ったが、何を言っているのか、さっぱり分からない。
「あの~ここは、どこでしょう」そう言う蕗の言葉も、伝わらない様だった。
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