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ほっとした家臣は「蕗様、お疲れで御座いましょう、王宮にて
しばし、お休みになられては」と、勧めたが、蕗は
「折角、赤の国に来たので、街中を見て回りたいわ、案内してくれない?」
と、家臣に頼んだ「どういう所が、ご覧になりたいので?」
「そうねぇ、まず市場が有ったら」「分かりました、こちらで御座います」
家臣は、一番大きな市場に連れて行った。
屋台みたいな、小さな店は、食べ物屋で、どこも良い匂いがしている。
家臣二人と、ビルドとディグ、カラジとチャドの六人で
蕗を囲むようにして、市場の中を歩く。
「あっ、あのミンチボールみたいなの、美味しそう!!」
蕗は、そこへ駆けて行く「ふ、蕗様っ」「お、お待ちをっ」
警護の六人は、大慌てで蕗の後を追う。
「カラジ、これ買って」と、蕗は、ミンチボールの串刺しを指差す。
さっきの様に、皆に囲まれたらと、ヒヤヒヤしたが、市場に居る人々は
遠くから、蕗を見ているだけだった。
さっきの人の中に、この市場の人も居て、皆に蕗の話をしていた様だ。
その店の小母さんは、にこにこして「蕗様、どうぞ」と、串を一本呉れた。
「有難う」蕗は、直ぐにかぶりついて「わぁ~美味しい~」と、笑顔になる。
すると、隣りの店からも、更に隣の店からも「蕗様、良かったらどうぞ」と
色々な物が、蕗の手に渡される。
職人が多い国だと言う事で、ちょっとの間に、素早く食事が出来るようにと
どの食べ物も、手で持って食べられる様になっていた。
蕗は、その品々を、一つづつ食べて「赤の国には、美味しい物が多いわね」と
目を輝かせた。
そんな屋台通りを過ぎると、生活道具を売っている店、農具を売っている店
食器を売っている店、宝石や、金や銀の飾りを売っている店
剣を売っている店まで有った。
「どれも、見事な細工ですね」蕗がそう言うと
「蕗様、物を作っている所を、見学しませんか?」と、家臣の一人が言う。
「わぁ~是非見たいわ」蕗は、嬉々として、物作りの現場へ向かった。
まず、生活道具や、農具を作っている所へ行った。
そこは、トンテンカンと、槌の音が響く鍛冶屋だった。
真っ赤な鉄の塊を、二人で打っている、花火の様な火花が散る
それ以上に職人たちの汗が散る、その向こうでは
ドロドロに溶けた、真っ赤な鉄を柄杓で汲んで、鋳型に流し込んでいる
あれでは、火傷も多い筈だと、蕗は見て思った。
「これは蕗様」と、頭を下げたのは、さっき火傷を治してやった者だ。
「私の花畑でも使う、鍬や鎌は、こうして出来ているのね」
「はい、この道具は、我が国はもとより、緑の国でも青の国でも
使って頂いております」男は、額の汗を拭いながら言った。
「大変なお仕事ですが、頑張って下さいね」
蕗はそう言って、次の場所へ行った。
そこでは、銀を使って、食器を作っていると言い、ナイフやスプーンなどが
沢山作られていた、そこにも、蕗が治してやった者が居て
「蕗様、何か入り用な物は有りませんか?何でも、作らせて頂きます」と言う
「そう?じゃ、お言葉に甘えて、作って欲しい物が有ります」
「はい、何でしょうか」「小ぶりの、銀の如雨露が欲しいんです
如雨露の穴は、出来るだけ小さくして欲しいの、出来る?」
「お安い御用です」そう言っている男の傍の机に、銀の棒が有るのを見た蕗は
「もう一つ、こんな棒を、30センチ程に切って、丸く削ってくれない?」
と、言った「お安い事ですが、何に使われるのです?」
男は、その棒を、直ぐに、蕗が言った長さに切った。
「これは、食事の時に使うの、こんな風に」と、蕗は、その二本の棒を
手に持って、傍に会った、ネジを掴んで見せた。
見ていた全員が「何と器用な事を」と、驚く。
「分かりました、では、これを使えるように加工して来ます」
「お願いします」そう言って、他の物を見ている間に、銀の箸が出来上がり
「これで、宜しいでしょうか」と、蕗に渡された。
持つ所は、つるつるで、先を細く削った所は、物が掴みやすいように
加工されていて、箸の上部には、蕗の葉っぱが彫られていた。
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