赤の国と青の国

4/9

58人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
ほっとした家臣は「蕗様、お疲れで御座いましょう、王宮にて しばし、お休みになられては」と、勧めたが、蕗は 「折角、赤の国に来たので、街中を見て回りたいわ、案内してくれない?」 と、家臣に頼んだ「どういう所が、ご覧になりたいので?」 「そうねぇ、まず市場が有ったら」「分かりました、こちらで御座います」 家臣は、一番大きな市場に連れて行った。 屋台みたいな、小さな店は、食べ物屋で、どこも良い匂いがしている。 家臣二人と、ビルドとディグ、カラジとチャドの六人で 蕗を囲むようにして、市場の中を歩く。 「あっ、あのミンチボールみたいなの、美味しそう!!」 蕗は、そこへ駆けて行く「ふ、蕗様っ」「お、お待ちをっ」 警護の六人は、大慌てで蕗の後を追う。 「カラジ、これ買って」と、蕗は、ミンチボールの串刺しを指差す。 さっきの様に、皆に囲まれたらと、ヒヤヒヤしたが、市場に居る人々は 遠くから、蕗を見ているだけだった。 さっきの人の中に、この市場の人も居て、皆に蕗の話をしていた様だ。 その店の小母さんは、にこにこして「蕗様、どうぞ」と、串を一本呉れた。 「有難う」蕗は、直ぐにかぶりついて「わぁ~美味しい~」と、笑顔になる。 すると、隣りの店からも、更に隣の店からも「蕗様、良かったらどうぞ」と 色々な物が、蕗の手に渡される。 職人が多い国だと言う事で、ちょっとの間に、素早く食事が出来るようにと どの食べ物も、手で持って食べられる様になっていた。 蕗は、その品々を、一つづつ食べて「赤の国には、美味しい物が多いわね」と 目を輝かせた。 そんな屋台通りを過ぎると、生活道具を売っている店、農具を売っている店 食器を売っている店、宝石や、金や銀の飾りを売っている店 剣を売っている店まで有った。 「どれも、見事な細工ですね」蕗がそう言うと 「蕗様、物を作っている所を、見学しませんか?」と、家臣の一人が言う。 「わぁ~是非見たいわ」蕗は、嬉々として、物作りの現場へ向かった。 まず、生活道具や、農具を作っている所へ行った。 そこは、トンテンカンと、槌の音が響く鍛冶屋だった。 真っ赤な鉄の塊を、二人で打っている、花火の様な火花が散る それ以上に職人たちの汗が散る、その向こうでは ドロドロに溶けた、真っ赤な鉄を柄杓で汲んで、鋳型に流し込んでいる あれでは、火傷も多い筈だと、蕗は見て思った。 「これは蕗様」と、頭を下げたのは、さっき火傷を治してやった者だ。 「私の花畑でも使う、鍬や鎌は、こうして出来ているのね」 「はい、この道具は、我が国はもとより、緑の国でも青の国でも 使って頂いております」男は、額の汗を拭いながら言った。 「大変なお仕事ですが、頑張って下さいね」 蕗はそう言って、次の場所へ行った。 そこでは、銀を使って、食器を作っていると言い、ナイフやスプーンなどが 沢山作られていた、そこにも、蕗が治してやった者が居て 「蕗様、何か入り用な物は有りませんか?何でも、作らせて頂きます」と言う 「そう?じゃ、お言葉に甘えて、作って欲しい物が有ります」 「はい、何でしょうか」「小ぶりの、銀の如雨露が欲しいんです 如雨露の穴は、出来るだけ小さくして欲しいの、出来る?」 「お安い御用です」そう言っている男の傍の机に、銀の棒が有るのを見た蕗は 「もう一つ、こんな棒を、30センチ程に切って、丸く削ってくれない?」 と、言った「お安い事ですが、何に使われるのです?」 男は、その棒を、直ぐに、蕗が言った長さに切った。 「これは、食事の時に使うの、こんな風に」と、蕗は、その二本の棒を 手に持って、傍に会った、ネジを掴んで見せた。 見ていた全員が「何と器用な事を」と、驚く。 「分かりました、では、これを使えるように加工して来ます」 「お願いします」そう言って、他の物を見ている間に、銀の箸が出来上がり 「これで、宜しいでしょうか」と、蕗に渡された。 持つ所は、つるつるで、先を細く削った所は、物が掴みやすいように 加工されていて、箸の上部には、蕗の葉っぱが彫られていた。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加