赤の国と青の国

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果てしなく広い、真っ青な海、直ぐ近くに、青の国だと言う 大きな島が見える『あのくらいの距離か~、日本なら、すぐ橋を掛けるな』 蕗は、目の前の島を見ながら、そう思った。 両側を、高い板壁みたいな物に囲まれた道を渡ると、そこは船の上だった。 カラジとディグは、馬の両脇に着き、手綱を持ち、チャドとビルドが チャドの馬車の馬の手綱を持っている、波で大きく船が揺れた時 馬が驚かない様に「よしよし」と、首を撫でてやっている。 だが、船は直ぐに青の国に着き、港に出迎えている、大勢の人たちが 「蕗様~」「蕗様~」と、手を振る。 赤銅色に日焼けした男達が多く、女達も、元気そのものと言う感じだった。 その先には、青の国王ルシアンも、笑顔で蕗を迎える。 「蕗様、ようこそ、お待ち申しておりました」と、大きな手で、蕗と握手する 「ひとまず、王宮でお休み下さい」ルシアンはそう言ったが 「いえ、私は、直ぐに怪我をした人の所へ行きたいと思っています 皆さんへの薬は、後ろの馬車に積んであります、どうか、お使い下さい」 蕗の言葉に、ルシアンは「有難う御座います」と礼を言うと 家臣に、言い付け、チャドの馬車から、薬を運び出した。 そして、二人の家臣に、蕗を怪我人の所へ案内させた。 馬車は、海沿いの道をゆっくりと行く「ああ、懐かしい、海の匂いだわ」 結婚して数年、辛い事ばかりだったが、久しぶりに見る海は そんな事も、何でも無かった様な気にさせてくれる。 「時間って、凄いな~」遥か水平線に目をやりながら、蕗はしみじみと思った 連れて行かれた家には、船から落ち、波で岩礁に打ち付けられたと言う 男が、呻いていた。 体半分に、岩礁で傷つけられた、広い傷が有った。 動かすと痛がるからと、運び込まれた時の、板の上に寝かされている。 「丁度良いわ、その板ごと、外に出して」蕗はそう命じて、男の体半分に 銀の如雨露に入れた、回復薬を、まんべんなく掛け、治る様にと念じる。 傷は、徐々に塞がり、綺麗になった、男は、喜びの涙を零した。 「この如雨露、早速役に立ってくれたわ、有り難い事」蕗はそう言って笑った それから、男の身体を丁寧に診て「骨折も無いし、これなら、もう大丈夫よ」 と、優しく言った。 男の妻と子供は、男に駆け寄って抱き合い、喜んだ後 蕗に、深い感謝の言葉を述べた。 次に行った所には、シャコ貝に、足を挟まれたと言う男が 腫れあがった足を抱えていた、 「よく、これだけで済みましたね」その足を見て、蕗は言った。 「一緒に居た仲間が、咄嗟に貝の口に、持っていた道具を挟んでくれまして」 それで、シャコ貝は、最後まで口を閉じられなかったと言う。 足の腫れを治した蕗は「足の骨は、骨折は免れましたが、ひびが入っています ちょっと、じっとしていて下さい」そう言って、ひびを治してやった。 海の男達は、荒っぽいのか、船の帆に絡まったとか 網を切っていて足まで切ったとか、大きな傷が多かった。 中には、浅瀬を歩いていて、雲丹を踏んで、足の裏にウニの棘が刺さって 取れないと、泣く男の子も居た。 「大丈夫、蕗が取ってあげるよ」蕗は、大きく息を吸い、その棘が 出て來るイメージで、魔法を送った。 中まで入り込んでいた、三本の棘の頭が出て来た、蕗は、それを抜き 薬を掛けて「ほら、もう痛く無いでしょ」と、頭を撫でてやった。 男の子は、涙を拭いて「うん、蕗様、有難う」と、お礼を言う。 「浅瀬を歩く時は、裸足じゃ駄目よ、必ず、履物を履いてね」 蕗の言葉に「うんっ」男の子は、大きく頷いて、母親の胸に飛び込んだ。
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