国王の秘密

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国王の秘密

王宮への報告は、またカラジが行き、蕗は屋敷に戻ると 直ぐに薬剤室に行って、回復薬の製造に、全力をあげる。 それが終わると、部屋に戻って、テラスに出て花畑を眺める。 あれだけ沢山摘んでいるにも拘らず、花畑は、変わった様子は無い。 摘んだ花の脇芽から、直ぐに次の花が咲くと聞いたが、本当なんだと思った。 暫くは、出掛ける用は無い、薬作りの毎日だなと思っていたが 「蕗様、王宮への呼び出しで御座います」と、マーラが言う。 「何かしら?」「きっと、この度の働きに、感謝状が、頂けるのでは」 レイモンドがそう言い、傍に居た侍女たちも、頷く。 感謝状なんて、良いのにと思ったが、国王の呼び出しだ、行かねばならない。 マーラと侍女たちは、張り切って、念入りに蕗に化粧をし 今回は、紫色の服を選び、金のネックレスと、イヤリングで飾った。 帽子も薄い紫色で、同じ色の腰まで有る、長いリボンが付いていた。 謁見の間は、この前と違って、玉座の下の左右に、将軍ハルドを始め 偉い人だろうと思える、男性、10人が、並んでいた。 玉座の前に誘導された蕗が待っていると「国王陛下のおなり~」と 声がして、国王ジュレームが現れ「蕗、この度の働き、見事であった。 赤の国王からも、青の国王からも、丁寧な礼状が届いており 私も、大いに喜んでおる、この働きに、緑の勲章を授ける物とする」 そう言って、傍の付き人が差し出す、銀のお盆の上に有る 緑色の勲章を手に取ると、促されて、国王の傍まで行った蕗の胸に それを付けてくれた。 並んでいた、ハルド達が、拍手をして蕗を祝福した。 蕗は、国王が勲章を付けてくれている時「陛下、二人だけでお話しが」 と、国王に囁いた、頷いた国王は「皆の者、今日は大儀であった」 と、皆を下がらせた後「蕗、話が有る、ちょっとこちらへ」と 蕗を、執務室へ連れて行った。 執務室の前には、近衛隊の隊長だと言う、シゼルが立っていた。 「シゼル、誰も居れるな」ジュレームはそう言い付けると 蕗を、自分の前の椅子に座らせ「話とは?」と聞く。 「はい、陛下、今日はお疲れの様ですが」 「分かるか、今日は月に一度の閲兵式で、式が終わるまで 馬に乗ったままだったからな」「何と言う無謀な事を!! まだ、三月で御座いましょう、今が一番大事な時、無理をして 子供が流れでもしたら、どうなさいます?取り返しは尽きませんよ」 蕗の言葉に、ジュレームは顔色を変えた。 「ふ、蕗、私の身体の事を、、」「はい、陛下が女性である事は」 「い、いつ知った?」「初めてお会いした時です、陛下の慈悲溢れるお姿は 母親独特の物で御座いましたから」「、、、やはり、蕗には隠せなかったか」 ジュレームは、深いため息をつくと なぜ女の身で、国王になったのかを話し始めた。 ジュレーム事、王女メリナには、双子の兄ジュレームが居た。 仲の良い兄と妹、そんな二人は10歳になった。 その日は、母方の祖母の屋敷に、遊びに来ていたのだが 王宮では、若い国王が、突然胸の痛みを訴えた後、直ぐ、こと切れてしまい 上を下への、大騒ぎになった、知らせで駆け付けた魔導士も、なす術は無く 王妃の呼びかける声が、虚しく響くだけだった。 そんな事など、全く知らない王子と王女は、屋敷の裏の林の中で遊んでいた。 そこへ、狼が現れ、逃げようとしたメリナの服の裾に噛みついた。 「きゃぁ~」妹の声に振り返ったジュレームは、剣を抜いて戦いながら 「メリナ、屋敷に知らせろっ」と、叫んだ。 メリナが、走っていると、二人の姿が見えない事に気付いた、シゼルが 探しに来たのと、ばったり出会った「シゼル!!、早くお兄様を、、狼が」 シゼルは、みなまで聞かず、走って行ったが、すでに狼に喉を食い破られ ジュレームの息は無かった。 シゼルは、狼を追い払うと、マントにジュレームを包んで抱き 屋敷に戻ると、こっそり自分の部屋に、メリナとジュレームを隠し 当時、近衛隊の隊長だった父に「王妃様を連れて、隠密にお帰り下さい」 と言う、走り書きを持たせ、侍従を王宮に走らせた。 その走り書きに、ただならぬ思いを感じた父は、王妃を伴って こっそり、帰って来たが、王子の死を知って、驚愕する。 夫の死さえ、信じられ無い思いだった王妃は、ジュレームを見て失神した。 そんな母に「お母様、お母様」メリナは、取りすがって泣いた。
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