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シゼルが馬を飛ばし、息子の悲報に、王宮へ駆けつけていた
前国王の元に行き、事情を手早く話し
こちらも、隠密裏に仕立てた馬車に乗って、王妃の実家に行った。
息子と孫を、一挙に失った前国王夫妻は、悲嘆にくれたが
「この事態を、早急に良き方向へ進めねばならぬ
誰か、良い方法は思いつかぬか」と、前国王は言った。
王と、その跡を継ぐ王子迄、亡くなったと知れば、国民は動揺し
兵士達も、浮足立つ、そんな所を、闇の魔導士に襲われれば
この国は、ひとたまりも無く、その手に落ちる。
何としても、それだけは防ぎたかった。
「私が、元気ならば、もう一度国王の座に戻っても良いのだが、、、」
前国王には、持病が有り、何日も寝込む事が有った、
だからこそ、早めに国王の座を、息子に譲ったのだ。
皆が困っていると「私が、国王になります」と、メリナが言った。
「何だって?」「駄目よ、女では、国王になれないのよ」母が、驚いて言う
「だから、亡くなったのは、私と言う事にして、私が、お兄様になるの」
「そ、そんな事、いくら何でも」祖母二人は、顔を見合わせ、首を振った。
「だって、私、お兄様より、早く走れるし、馬にだって、上手に乗れるわ」
確かに、ジュレームは大人しく、剣の稽古や、乗馬の訓練より
勉強をする方が好きな子だった。
反対に、メリナは活発で、剣の稽古や乗馬の訓練が、大好きだった。
「姫様に、こんな事をさせる訳にはと」と、家臣達が困惑していた位だ。
「う~~む」皆が腕組みをして、考え込んでいると、鋏を持って来たメリナは
いきなり、長いふさふさの髪に、ジャキンと、鋏を入れた。
「きゃぁ、何をするの!!」「ほら、これで私、お兄様になれたでしょ」
双子なので、顔も姿もそっくり、違うのは髪の長さだけ
それを切ってしまえば、メリナはジュレームそのものだった。
結局、他に良い案も無く、メリナは、ジュレームとして生きる事になった。
「メリナ、これからは、茨の道を歩く事になるのよ、それでも良いの?」
王妃は、メリナを抱きしめて、涙を零しながら、そう言った。
「悲しまないで、お母様、あの時、お兄様が、助けに来てくれなかったら
私は、もうここには居なかった、死んだつもりで、お兄様になり切るわ」
「メリナ、、、」「お兄様は良く言ってたわ
父上の様な立派な国王になって、国民の為に、力を尽くすって。
私、お兄様になって、お兄様のその夢を、実現させてあげたいの」
「メリナ、、」「姫様、、」メリナの決意を聞き
そこに居た全員が、涙を零した。
それから一年間、国王と、メリナの喪に服す、と言う名目で
メリナや、王妃たちは、人目につかぬ王妃の実家で
メリナから、ジュレームになる訓練を、日々続けた。
喪が明けた良き日に、戴冠式を済ませた、ジュレーム事メリナは
その可愛くも、凛々しい姿を、国民の前に現した。
「王様~」「ジュレーム様~」国民は、悲しみを忘れ
新しい国王誕生に、大きな安堵と共に声援を送った。
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