国王の秘密

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ジュレームが、懐妊すると同時に、ミリアが懐妊したと、国民に知らせた 国民は、躍り上がって喜び、ミリアに関心が集中した。 ミリアは、少しずつお腹に巻く布を増やし、途中からは綿も入れて お腹を大きく見せ、ジュレームは、お腹が隠せる、ぎりぎりまで仕事をし その後は、骨折したと言う事にして、引き籠った。 国民は心配したが、足が動かせないだけで、身体を使う事以外の仕事は 今迄通り出来るんだと、安心させる。 出産の時も、ジュレームの上半身は、カーテンで仕切られ 顔が見えない様にして、ミリアが出産していると、産婆には思わせた。 傍には、侍女も置かず、ジュレームの母と祖母、シゼルの母達が、取り囲み 誰にも知られない様に、配慮された。 こうして、無事に王子、ジョアンが誕生したのだった。 何も知らない国民は、王子誕生の喜びで、沸き返った。 程なく、骨折も治ったジュレームも、国王として復活し 国民は、お祝いムード一色となった。 そんな中、ジョアンが生れた事を、一番喜んだのは、ミリアだった。 根っからの子供好きで、昔から、結婚はしたく無いが 子供は欲しいと、願っていたからだ。 「ジョアン、ジョアン」ミリアは、良き母として、ジョアンを愛しんだ。 ジュレームも、父親としてだが、ジョアンを可愛がる。 これで一つの大役が済んだと、ジュレームは思っていたが 三歳になったジョアンに、兄弟を作ってやりたいと言う、ミリアの願いに負け もう一度、子供を産もうと、決心したのだと言う。 「自分が、言い出した事ですが、一つの嘘を隠す為に、次々と嘘を重ね 嘘で固められた、この身が、時々、とてつもなく苦しくて 狂ってしまいそうになるんです。 それでも、兄の為、国民の為と、歯を食いしばって、頑張って来ました」 「そうでしたか」この細い身体で、こんな大きな秘密を背負い 心も身体も、ぎりぎりで、ここまでやって来たのだろう。 蕗は、話を聞きながら、ジュレームの上着を脱がせ、長椅子に横にならせ ジュレームの頭をマッサージし、肩から腕まで、良く揉み解し 足の裏も、ぎゅっぎゅっと押し、血行を良くするために 上へ向かって撫で上げる、蕗は、マッサージは、得意だった。 農村でも、漁村でも、どこへ行っても、年寄りの肩を揉まされていたからだ。 「ああ、良い気持ち、何だか眠くなってしまう」ジュレームは、目を瞑った。 最後に、背中を撫でながら「お辛い時は、お好きな方の胸の中で 思いっきり泣く事をお勧めします」と、蕗は言い 「え?」と、振り返ったジュレームに、にっこり笑って 「少し、お休みなさいませ」と、眠れ、眠れと魔法を掛けた。 執務室から出ると、シゼルが、心配そうに立っている。 「陛下は、お疲れです、時間の許す限り、休ませてあげて下さい」 蕗がそう言うと「分かりました、次の謁見は、代わりの者にやらせます」 シゼルはそう言うと、そっと、執務室の中へ、消えた。
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