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あの樹海の中に、人が住んで居たなんて、思いもしなかった。
しかし、何で言葉が分からないのだろう。
東北の人が、方言で喋ると、何を言っているのか、さっぱり分からないが
この人も、その類なのか?しかし、顔や服装は、明らかに日本人では無い。
その女性は、蕗の手を取ると、部屋から連れ出し、洗面所みたいな所へ行って
顔を洗えと言う、ゼスチャーをした。
歯ブラシに、小さな壺に入っている、塩みたいな物を付けてくれ
歯を磨けと言う、ゼスチャーもする。
何を言っても、分からないのだ、蕗は、示された通りに、塩で歯を磨く。
と言っても、歯医者になど行かせて貰えなかった蕗の歯は、殆ど無くて
磨く時間も少しで良かった。
傍の、大きな壺から、洗面台に有る、木桶に水を入れ
これで顔を洗えと示す、その通りにすると、顔を拭く、タオルを渡された。
タオルで顔を拭き、さっぱりした蕗を、その女性は、違う部屋に連れて行った
そこには、木のテーブルと椅子が有り、テーブルの上には、小さな花が飾られ
パンが入っている、籠も有った。
女性は、蕗を椅子に座らせ、奥の方に、声を掛けると
若い女性が、木のお皿に、三匹の焼いた魚を入れて持って来て
蕗の目の前に置いた、シシャモより、少し大きい、見た事の無い魚だった。
ジュージュー音を立てていて、何とも良い香り、蕗のお腹が、ぐ~っと鳴る。
若い娘は、中年の女性に、よく似ていた。
薄い茶色の髪に、透き通るような白い肌、目の色も、明るい茶色だった。
きっとこの人の娘だろうと、見当を付ける。
娘は、丸い、これも木の皿に、パンを取り蕗の前に置くと
野菜が入っている、スープみたいな物も、運んで来た。
二人は、にこやかな顔で、食べろと言う仕草をする。
何が何だか分からないが、取りあえず、頂こう
蕗は、置かれているスプーンを持って、まずスープを口に入れた。
「うっ」野菜の味はするが、出汁の味が、全くしない、ただの塩湯だった。
魚は、、どうやって食べれば良い、箸が無い。
すると、娘が、魚の尻尾と頭を持って、食べる真似をした。
手で食べろと言うのか、仕方ない、蕗は、両手で魚を持って
がぶりと食べる、丁度良い塩加減の、ほくほくした美味しい魚だった。
パンも勧められる、美味しいパンだったが、蕗の口の中の唾液を
全部持って行く、それを喉に通す為には、やっぱりスープが必要だった。
結局、出された物は、すべて食べて、お腹が膨れた蕗は
「ご馳走様」と言ったが、伝わったかどうか、分からなかった。
食後には、香り高い紅茶が出された「わぁ~これ、最高に美味しい」
蕗の言葉が、伝わったのか、二人は、にこにこした。
ひと休憩した所で、その女性は、蕗の手を取り、家の外へと連れて行く。
家の外には、同じ様な丸太作りの家が並び、大勢の人が、蕗を見ている。
その人達も、全員、日本人では無く、話している言葉も、まるで分らない。
女性は、道を横切り、水の無い川みたいな所へ連れて行くと
高い崖の下の、大きな平たい石の上に、蕗を連れて行き
その石に刻まれている、足形の上に立たせた。
周りにいる人々は、話を止め、固唾を飲んで蕗を凝視する。
「そのままで」と言うゼスチャーをして、女性が、蕗の傍から離れると
いきなり、ドドドーッと、物凄い水が、蕗の頭に降って来た。
その水量の凄さに、一ミリも身体を動かせず、溺れるんじゃないかと
恐れたが、幸い、その水は1分ほどで止まった。
あ~~驚いた、何で滝行させられるんだろう、そう思っている
蕗の後ろから、厳かな声が響く。
【この者は、癒しの魔導士なり、この者は、癒しの魔導士なり】
その声に、周りにいた人々から「わぁ~~っ」と言う、歓声が上がった。
「癒しの魔導士様だ~」「良かった良かった」手を取り合ったり
ぴょんぴょん飛び跳ねたりして、喜び合っている。
『いやしのまどうし?なんだろう?」そう思った蕗は、あっと声を飲んだ。
さっきまで、何を言っているのか、分からなかったのに、今は、言葉が分かる
「魔導士様、こちらへ」さっきの女性が、蕗を連れに来て
元の家に連れて行く。
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