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ドラゴンの卵
蕗は「陛下、随分、お顔の色が良くなられましたね」と、言った。
国王に対しては、もっと丁寧な言葉を使うのだろうが、蕗はそれを知らない。
ジュレームは、にっこり笑って「この前の、蕗の言葉を聞いて
何だか心の重みが、軽くなった様で、よく眠れる様になりました」と言う。
「それは、良う御座いました」そろそろ悪阻も収まる頃だ。
「これからは、二人分だと思って、しっかり食べて下さいね」
蕗はそう言うと、お腹の子供の為に
出来るだけ食べた方が良い食材を教えた。
ジュレームは、それをメモし「有難う、心がけます」と言い
「それは何ですか?」と、蕗が持っている、小さな缶を見て言った。
「これは、私が、元居た国で飲まれていた、お茶と言う物です」
「お茶?」「はい、この国で飲まれている、紅茶と同じ葉っぱで作る物です」
「ほう~」ジュレームは、缶を受け取り、蓋を開け
「おお、いい香りでは無いか」と、言った。
「飲んでみます?」「是非!!」ジュレームは、可愛いベルを鳴らし
部屋の外に居る、シゼルを呼んだ。
「陛下、お呼びで御座いますか」シゼルが、恭しく頭を下げて言う。
「うん、お茶と言う物を試飲する、用意を頼む」「お茶?」
シゼルが、蕗に目をやる。
「紅茶を飲む時の道具と、お湯をお願いします」蕗の言葉に
「ここに?」と、シゼルは驚きの目で言う。
「良いから、早く」ジュレームは、国王らしからぬ言葉で、急かす。
「しばらくお待ちを」シゼルは出て行った。
直ぐに、ティーポットと、カップと、お湯が運ばれて来た。
蕗は、まずカップにお湯を入れ、温めている間に、ポットに茶葉を入れ
上からゆっくりとお湯を回し掛け、茶葉が開くまで待つ。
頃合いを見て、カップのお湯を捨て、そこへお茶を注ぐ。
「何と!!この色は、我が国の象徴、緑色では無いか」
ジュレームが、声を上げ、シゼルも目を瞠る。
「陛下、どうぞ」と、蕗が、差し出そうとすると「待て待て、まず私が」
シゼルは、毒見係みたいな顔で、そのカップのお茶を、一口飲んだ。
「どうだ?」ジュレームが、早く飲みたそうな顔で言う。
「素晴らしい!!この味と香り、何と表現すれば、、」「もう良い、早く」
ジュレームは、シゼルの手から奪う様に、カップを取り、一口飲んだ。
続いて二口、三口と飲んで「はぁ~っ」と、大きな息を吐き
「和むな~」と、にっこり笑う。
「お気に入って頂けて、嬉しく思います」蕗はそう言うと
このお茶を淹れるお湯は、鉄製の薬缶で沸かさない事
お湯の温度は、高くなる程、苦みが強く出る事
眠れなくなるので、寝る前には飲まない事等、注意して、お城を下がった。
翌日「ミリア様、ご懐妊~」と言う、嬉しい知らせが、国中に知らされた。
「蕗様、昨日、陛下に会われたそうですが、何か聞きになりましたか?」
と、マーラとレイモンドが聞く。
「うん、懐妊された事は聞いているよ」「やっぱり!!」
「では、王妃様に、何か有ったら、蕗様の出番ですね」マーラがそう言う。
「そうなるけど、出来るだけ、そうならないように祈らないとね」
「そうで御座いますね~」二人は、そう言った後
「今度は、姫様であろうか?」「もう一人、王子様が居ても、、」
二人は、早くも生まれる子供の事を、あれこれ思っていた。
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