ドラゴンの卵

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蕗は、相変わらず、回復薬作りに励んでいたが、もう赤の国にも 青の国にも、一箱ずつ送れば良いようになり、国内も薬は十分行き渡って 今は、冬に備えての、作り置きという所だった。 あれほど咲き誇っていたリフの花も、少しずつ枯れ、代わりに実を付ける。 薄い皮に包まれている実は、真っ黒で、西瓜の種か、朝顔の種の様だった。 「花に、あれだけの力が有るのなら、実の方は、もっと凄いんじゃない?」 蕗はそう言ったが「さぁ~、まだ誰もそれを確かめた者は居ません」と ラフルとマディーが言う。 「それじゃ、私が確かめてみるわ」蕗は、カップ一杯ほどの種を デルフに貸して貰ったフライパンで煎り、二カ月に一度、往診に行く 赤の国から買って来た、小さな石臼で、引いてみた。 黒い黄粉みたいな物が出来た。 指先に付けて、舐めてみる「どうですか?」二人が、興味津々の顔で聞く。 「よく分からないわ、私、どこも悪くないからね~」 「確かめる人、誰か、居ませんかね~」ラフルとマディーは顔を見合わせ レイモンドを連れて来た。 この頃、足や腰に違和感が有ると、嘆いていたからだ。 蕗は、蜂蜜にその粉を混ぜ「変わった蜂蜜が有るの、食べてみて」と レイモンドに食べさせ「美味しい?」と、聞く。 「いえ、特に美味しいとは思いませんが」「やっぱり」 何だろうと言う顔のレイモンドを帰して「あまり効果は無いようね」と 蕗が言い、三人は、がっかりした。 ところが、夕食に来たレイモンドは、背筋もピンと伸び、足取りも軽やかで てきぱきと、侍従たちに指図する姿は、随分若くなったように見えた。 「何だか、張り切っているわね」蕗がそう言うと 「どう言う訳か、午後から急に、元気が出まして、足や腰に有った違和感も すっかり取れてしまったんです」と、言う。 蕗と、ラフルとマディーは、顔を見合わせ、小さく頷き合った。 やっぱり、種にも効果は有ったんだ、直ぐに萎んでしまう花と違って 種なら、そのまま保存しておいて、必要な時に、薬にすれば良い。 薬作りも、ずいぶん楽になる、そう思った。 食事の後の、お茶の時間に、蕗はロブに、種も収穫して欲しいと頼んだ。 毎日、毎日、薬を作り、その合間には、国の病人や怪我人を診て 赤の国や青の国にも、往診に行く、一時も、じっとしていない蕗に 「蕗様、働き過ぎです」「少し、お休みになられては」 レイモンドと、マーラが心配して言う。 「大丈夫よ、自分が思う通りに、体が動いてくれるんですもの それが嬉しくて」若くなった身体は、どんなに無理をしても 一晩寝れば、疲れは取れる「本当に、有り難いわ」 歳を取って、自分の身体が、思うように動かせなくなった。 その辛さを知っている蕗には、若い時には、当然と思っていた事が どんなに素晴らしい事だったかを、改めて感じていた。 王宮から使いが来て「もし、まだお茶が有ったら、分けて欲しい」と言う ジュレームの頼みを伝えた。 「王様は、お茶が気に入られた様ね」ダニエルがくれた、もう一袋も すでに、デルフたちの手で、お茶になっていた。 蕗は、お茶を持って、ジュレームに会いに行った。 「よく来てくれた」ジュレームは、また執務室で、お茶を淹れさせ 蕗と、シゼルと三人で、お茶を楽しんだ。 「もう、動くようになったんだ」ジュレームは、嬉しそうに お腹に手を当てる「順調そうで、何よりです」そう言う蕗に シゼルが「蕗様、今後の事ですが」と、相談を持ち掛けた。
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