ドラゴンの卵

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ドラゴンの子供は、一心不乱にそれを食べ、お腹が大きくなった様で よちよちと、蕗の膝に登って来ると 丸くなって、蕗の腕を枕にして、すやすやと眠った。 「可愛い!!」まるっきり、蕗を親だと信じ切っている。 その姿は、蕗の心を癒した。 だが、屋敷の者に、隠し通せる筈も無く 蕗が、デルフに魚の切り身を貰いに行った後 何も知らない、侍女のキャラが、クローゼットを開け「きゃぁ~」と叫ぶ。 何事!!と、駆け付けた皆の前で、赤い小さなドラゴンは きょろきょろしながら、カルル、カルルと、蕗を呼んだ。 魚の切り身を持って、大急ぎで帰って来た蕗に「蕗様!!」 「こ、これは、ドラゴンでは有りませんか」マーラとレイモンドが 青い顔で、言う。 「ごめんね、吃驚させて」蕗は、この子とのいきさつを話した。 その間に、ドラゴンの子供は、魚の切り身を美味しそうに食べると 蕗の膝で丸くなって、寝てしまった。 「ね、まるで子猫みたいに可愛いでしょ」「、、、、」皆は、声も無い。 「この子、どうなさるおつもりですか?」やっとマーラが口を開く。 「出来れば、独り立ちできるまで、飼ってやりたいんだけど」 「それは、無理と言う物で御座います、今は小さいので この屋敷内に隠して置けますが、大きくなって、飛ぶ様になれば 国民は、恐怖に震える事となります」レイモンドがそう言う。 「やっぱり駄目なのかな~この子ね、私を親だと思ってるの」 蕗はそう言うと、腕に乗せられている、赤い頭を愛しそうに撫でた。 その様子を見ていたマーラは「取りあえず、この子の処遇が決まるまで お屋敷内で、育てましょう」と、言った。 「有難う、この子の名前、カルルにしたの」 「えっ、名前まで決めたのですか?」と、皆は驚く。 「ええ、ドラゴンの子供って言うより、カルルって言った方が、早いでしょ 鳴き声から取った名前だけど」蕗は、嬉しそうな顔で言う。 翌日、蕗は、胸に抱いたカルルの上から、上着を着て、カルルの姿を隠し ミリア様とジュレーム様の往診と言う名目で、王宮に行った。 いつも通り、執務室に通された蕗は「今日は、これをご覧に入れたくて」 と、ジュレームでは無く、シゼルに、上着を取ってカルルを見せた。 身重のジュレームを、驚かせたくなかったからだ。 「こ、これは、、」シゼルは、顔色を変える。 素早く上着を羽織った蕗に「何です?」と、ジュレームが言う。 「陛下、、」シゼルは、暫く躊躇した後、思い切った様に 「驚かないで下さい、ドラゴンの子供です」と、言った。 「ドラゴンの?どうして蕗が?」ジュレームは、不思議そうに聞く。 蕗は、林の中での出来事や、ダニエルの話もして 「この子は、私を親だと思っておりまして、一時も離れないのです」と カルルを見せた「なんと!!しかし、ドラゴンでも、子供は可愛いな」 ジュレームが、あまり驚かなかったので、蕗は安心した。 「陛下のお許しが無ければ、この子を飼う事は出来まいと ダニエルさんに、言われまして」蕗がそう言うと 「私は、構わないと思うが、シゼルはどう思う?」と、ジュレームは シゼルの意見を求めた。 シゼルは「何と言っても、ドラゴンですから、その姿を見れば 国民は、不安に陥る事になるでしょう」と、言った。 「そうか、しかし、私は子供を産むと言うのに、ドラゴンだと言うだけで この子を処分すると言うのは、気が重いな」ジュレームは、そう言った。 処分、、この子を殺すと言うのか、折角生まれて来たのに すっかり私を、親だと思っている、こんなに可愛いカルルを。 「私が、責任をもって、誰にも迷惑を掛けない様に育てます。 どうか、処分だけは、、」蕗は、目に涙を溜めて、そう言った。
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