対決

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その言葉通り、ジョアンは、髪の毛にも服にも、枯れ草を一杯くっつけて 帰って来た「まぁまぁ、こんなに」蕗が、せっせと くっついている草を取ってやり、マーラと侍女が、おやつを運んでくる。 「頂きま~す」ジョアンとカルルは、競争する様に、おやつを食べ お腹一杯になったジョアンは、風鈴が気に入って、欲しいとねだる。 「エディとセリナにも、風鈴の音を、聞かせたい」と言うのだ。 「どうぞ、蕗は、また赤の国に行って、買ってまいりますから」 そう言って、蕗が渡してやると、大喜びで 「カルル、また来るね~」と、馬に乗って帰って行った。 「ジョアン様、ぐんと成長されましたね~」レイモンドがそう言う。 「きっと、お兄様になった所為でしょうね」マーラもそう言う。 弟や妹にも、風鈴の音を聞かせてやりたい、そんな優しいジョアンの気持ちは 蕗にも、シゼルにも、嬉しい事だった。 蕗は、病院に来ていた、赤の国のガラス職人に、形やサイズを教え 硝子の風鈴も作ってくれと頼んだ。 「その風鈴の内側に、絵を書いて欲しいの」「絵ですか?どんな物を?」 「花でも、鳥でも、魚でも、何でも良いの、楽しくなる様な物をお願い」 「分かりました」そう言うガラス職人に頼んで、鉄職人に、もう20個 同じ風鈴を作ってくれと言う事を、託けた。 風鈴を欲しがる人が、多かったからだ。 蕗に頼まれた職人は、試作品を作り「蕗様は、これを風鈴と呼ばれていたぞ」 「風で鳴る鈴、確かに風鈴だな」ガラス工房でも、鉄工場でも 風鈴が作られ、赤の国の人々の間では「音が可愛い」「子供が喜ぶ」 「赤ん坊に、この音色を聞かせると、よく眠る」等と 一大風鈴ブームが、巻き起こり、まだ春なのに、あちこちの軒下で ちりんちりりんと、可愛い音色が響く。 色鮮やかな絵の具で、様々な絵が描かれた、ガラスの風鈴の方も 「僕は、魚が良いな、本当に泳いでいるみたいだ」と言う、男の子 「私は、お花が良いわ、綺麗だもの」と言う女の子等、大人だけでなく 子供にも、大人気だったが、一番人気が高かったのは カルルを描いた物で、これは、作っても作っても、直ぐに売り切れになる。 噂を聞いた、緑の国からも、青の国からも、風鈴が欲しいと 注文が殺到し、赤の国の職人たちは、寝る間もない程の忙しさになった。 皆が、風鈴の音に癒されていた朝、いきなり警報が鳴った。 闇の魔導士、グラディスが、黒いドラゴンに乗って、飛んで来たのだ。 「蕗様っ、こちらに向かって来ていますっ、非難されて下さいっ」 カラジが叫び、ディグとビルドが、蕗の傍に、ぴったり付いて、警戒に当たる 「蕗様、地下室へ」二人はそう叫んだが 蕗はテラスに出て、飛んでくる黒いドラゴンを見ていた。 花番達も、蜂屋も一斉に屋敷内に入り ドラゴンの姿を、小窓から、恐る恐る覗いている。 グラディスを乗せたドラゴンは、リフの花畑に降りた。 「あんな所で、何をする気?」そう思った途端、ドラゴンの長い尻尾が 周りの花を薙ぎ倒し、グラディスが、その花を、袋へ入れている。 「あんの野郎!!折角蕾を付け始めた、リフの花を、、」 ロブが、顔を真っ赤にして、飛び出そうとするのを トルヤと、他の花番が、必死で止める。 「まぁ、なんて事を!!」折角花番達が、丹精込めて育てた花を ドラゴンの、大きな足で踏みにじられ、長い尻尾で、薙ぎ倒されて 滅茶苦茶になった花畑に、蕗も、怒りに身を震わせた。 「カルルっ、行くわよっ」「カルル~」カルルは、蕗を背中に乗せ 黒いドラゴンの元へ、飛ぶ「ああっ、蕗様っ」「お帰り下さいっ」
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