貴族になった蕗

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貴族になった蕗

お城は、真っ白な外観に、とんがった三角の屋根だけ緑と言う 絵本や、有名な遊園地で見かける、お城によく似ていた。 馬車を降りた蕗は、目の前の幅の広すぎる、はるか頭上まで有る階段を見て 溜息をついた、こんな階段、年寄りの私が、登れる訳無いでしょうが。 しかし「蕗様、お手を」と、カラジに手を取られ 足首まで有る長いワンピースの、裾を踏まない様にと、右手で服を持ち上げて 階段に足を掛けた蕗は、すいすいと登れる事で 自分が、若い娘になっていた事を、思い出した。 その階段の両端には、弓を持った兵士と見られる男達が 直立不動で、各段に立っていた。 こういうのも、アニメでよく見るよね~ 蕗は、そう思いながら階段を登り切った。 その目の前に、蕗とカラジを待っていた様な、侍従らしき人が 「こちらで御座います」と、先に立って、案内する。 お城の中の、広い事広い事、天井の高い事、そして、とんでもなく豪華な事。 入った途端に、どこからか「癒しの魔導士、蕗様~~~っ」と言う声がして 蕗は、飛び上がるほど驚いたが、少し歩くたびに、同じ言葉が響き渡る。 ああ、これも、あのアニメで見た事が有る。 あれは、架空の話では無く、本当だったのか。 蕗は、リエラに貸して貰った靴で踏みしめる、絨毯の感触や うっとりする様な、いい香りが漂う空気に、夢みたいだけど 夢じゃ無いのよねと、次第に気持ちが高揚して来た。 案内して来た人が、大きくて豪華な装飾がされた、扉らしき所で止まり 二人に頭を下げると、どこかへ行ってしまった。 「ここが、謁見室です」カラジが、蕗に囁く。 扉の前に居た、二人の男が、重そうな扉を左右に開いた。 その前には、赤い絨毯が続き、絨毯の先は、一段高くなっていて そこには、見た事も無い、立派な椅子が有った。 その椅子の周りや、部屋の壁際には、沢山の男が、ずらりと並んでいたが その誰もが、直立不動で、微動だにしない。 カラジは、その椅子までの途中で立ち止まり、片膝をつき 「蕗様、王様が、お声を掛けて下さるまで、頭を上げないで下さい」と、言う 「私は?どうするの?」「両膝をついて、頭を下げて下さい」 蕗は、カラジに言われた通り、両膝をつき、顔を下の絨毯へ向けた。 誰かが、入ってくる気配がして「蕗様と、ドップの息子カラジで御座います」 と、誰かが、誰かにそう言った 「うむ、蕗殿、ようおいで下された、どうぞ、お立ち下さい」 優しい声がして、蕗は立ち上がり、その人の顔を見た。 立派な椅子に座っている、王様だ!!蕗は直ぐにそう思った。 体中から放たれている、物凄いオーラ、王様だと言うから 歳を取っていると思っていたが、まだ、30代にしか見えない 若くて、気品のある顔をしていた。 金色の巻き毛に、まるで、エメラルドの様な緑色の目が 神秘的に輝いている。 「蕗殿、この国は、癒しの魔導士を失ってより三年、民は、病や怪我で 苦しんでおります、どうか、蕗殿の力を持って、苦しみの民を お救い下さい」そう懇願する、その目には 国民を救いたいと言う、慈悲の気持ちが満ちていた。 「私の力で、出来ますなら、皆様を、お救いしたいと思います」 その気持ちに触れた蕗は、自分でも意外な言葉を口にした。 「おお!!やって下さるか」王は、椅子から立ち上がると 「有り難い、この通り、お礼を申し上げる」と、頭を下げた。 周りにずらりと並んでいて、眉一つ動かさなかった人々は 王様が、頭を下げたのに、よほど驚いたのか、一瞬、ざわっとした。
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