第五の国

7/9
前へ
/120ページ
次へ
その時「わぁ~っ」と言う声と共に、何かを持った男達が 山の方から走って来た。 「長、ルトマが、崖から落ちて、、」息を切らせながら、男の一人が言い 運ばれて来た、戸板の様な物に乗せられている男が、呻いている。 その男の足は、真っ赤な血で染まっていた。 「出血が酷くて、、どうしましょう」オロオロと言う男に 蕗は「長の家に有る、私の青い袋を持って来て」と、言い付け 男の傍に行くと「しっかりして!!直ぐ助けてあげるわ」そう言って 傷口の様子を見た、岩の角で切ったのか 長い切り傷が、ぽっかり口を開けていた。 「傷は此処だけ?他には無いのね?」蕗がそう聞くと 男は、気を失いそうになりながらも、頷いた。 さっきの男が、蕗のリュックを持って来た、蕗は、その中の回復薬を 男の傷口に掛け「塞がれ、塞がれ」と、傷口が塞がる事を強く念じた。 裂けていた血管が塞がり、出血が止まる、なおも、塞がれと念じる。 傷口が、徐々に塞がって行き、やがて、綺麗に治った。 「わぁ~っ」「神様が、助けてくれた」見ていた皆は、躍り上がって喜ぶ。 「有難う御座います、やはり、貴女様も、神様でしたか」 長は、嬉しそうにそう言った。 「いいえ、神などでは有りません、ただの医者です」そう言った蕗は 「血を沢山失ったから、暫くは、血が増える様な食べ物を、しっかり食べて 静かに養生してね」と、怪我をした男に言う。 「はい、本当に、有難う御座いました」蕗が居なかったら あのまま出血多量で、妻や子を残したまま、死んでいた所だった。 男は、涙を零しながら、お礼を言った。 そこへ、知らせを聞いて、その男の妻と子供が、駆け付けて来たが 蕗に助けられたと聞いて、地面に頭を擦り付け、お礼を言った。 蕗は、慌てて、その妻の体を起こし「良いのよ、私は医者だから 人を助けるのは、当然なのよ」と、良い、可愛い女の子の頭を撫でて 「お父さん、直ぐ元気になるからね」と、言った。 女の子は、嬉しそうに頷いて、男の腕の中に抱かれに行った。 「あのう、お医者さんだと言うなら、うちの息子も、診て貰いたいのですが」 一部始終を見ていた一人の老人が、遠慮がちに言う。 「良いですよ、あまり沢山、薬は無いのですが」それでも、出来るだけ 沢山の人を、助けてやりたいと思った。 老人の息子は、海に潜っていた時、毒のある針を持った魚に、足を刺され もう、何日も経つのに、一向に腫れが引かず、痛みも続いていると言う。 行ってみると、熱が出ているのだろう、赤い顔で短い息をしながら 痛む足を夜具の上に乗せた男が、寝ていた。 「毒針には、返しが付いていて、抜けなかったのね」診察した蕗はそう言うと 「でも、針の周りは膿んで柔らかくなっているから、今なら抜けるかも」 そう言うと、箸を持って来させ、膿の中の棘を引っ張り出した。 「うわぁ~っ」男は、痛みに絶叫した「もう大丈夫よ、針は抜けたわ」 蕗はそう言うと、傷口に回復薬を流し込み「毒が抜ける様に、これを飲んで」 そう言って、回復薬も飲ませた。 傷口からは、大量の膿が流れ出し、やがて、その後は綺麗に塞がった。 暫くすると、真っ赤だった男の顔色が、元に戻って来て 苦しそうだった息も、穏やかになった。 「毒の所為で、随分衰弱してるわ、体力が付く食べ物を、しっかり食べて ゆっくり眠りなさい」蕗が、男に言うと「はい、有難う御座います」 男は、何日も寝ていなかったのだろう、そう言うなり、もう目を瞑った。 「有難う御座います、有難う御座います」その男の父は、蕗に向かって 両手を合わせ、拝みながら、お礼を言った。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加