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国交
翌日、目覚めたアギンは、よろよろと妻の所へ行き
生れた我が子を抱いて、喜びの涙を零した。
「もう、大丈夫そうね」蕗が来て、そう言う。
「有難う御座います、蕗様が来て下さらなければ、この子を抱く事も
出来ませんでした」アギンは、涙と共に、深々と頭を下げた。
蕗は、集まって来た集落の皆に
「私は、全ての病や怪我を治せるわけでは有りません。
また、治せるものであっても、間に合わない事だって有ります。
自分の体力を過信せず、病や怪我をしない様、十分気を付けて下さい」
と、言い残して、迎えに来たカルルに乗って、村まで帰った。
村では、山の様な米と、ダーナンにしかない、珍しい果物や
酒や味噌や醤油等が、次々に小舟に積まれ、本船迄、運ばれて行く。
乗組員たちも、本船に戻り、出航の準備をしていた。
長は、蕗に託けたジュレームからの、国交を開きたいと言う申し出に
「有り難い事です、是非、お願いします」と、返事を書いて、蕗に託けた。
蕗は、ぎりぎりまで、体調の良くない者を訪ね
カルルは、子供達との最後の遊びに、興じていた。
その蕗とカルルも、船に乗り「出航!!」と言う、ガノンの言葉で
船は、ダーナンを離れた。
「蕗様~」「カルル~」「皆さん、また来て下さいね~」
ダーナンの、老若男女が、手を振って見送る。
船からも、皆が「有難う~」「また来ま~す」と、手を振る。
帰りの航海は「順調ですね~、この分だと、早ければ、明後日の朝
遅くても、明後日の夜には、帰り着きます」と、ロメイが言う。
そう聞いた蕗は、ふっと、顔を曇らせた。
誰かに、呼ばれている様な気がしたのだ。
「どうなさいました?」カラジが、直ぐに気付いて聞く。
「誰かが、病気になったのかも知れない」蕗はそう思うと
「私は、一足先に帰ります」と、カルルに乗って、飛び立った。
王宮前の広場に降り立った、カルルの背から、蕗が降りると
走って来た近衛隊員が「蕗様、お早く」と、ミリアの部屋に連れて行った。
ミリアの部屋では、ジョアンが、真っ赤な顔をして、苦しんでいた。
ジュレームとシゼルも、心配そうな顔で、ジョアンを見ていたが
「蕗っ」「蕗様、ジョアン様が」二人は、ほっとした顔で、蕗を迎え入れた
「これは、、」「麻疹だと思うのだが」と、シゼルが言う。
「確かに、そうみたいですね、でも、ちょっと酷い」
「そうなんだ、熱が高くて、、」ジュレームが、オロオロしながら言う。
「回復薬は?」「はい、飲ませたのですが」ミリアも、泣きそうな顔で言う。
「誰か、病院へ行って、種から作った回復薬を、持って来て下さい」
蕗は、ジョアンの身体に、両手をかざしてそう叫んだ。
「私が、、」シゼルは、そう言うと部屋を飛び出し、馬を走らせ
息せき切って、薬を持って帰った。
「ジョアン様、お薬を飲んで下さい」と、飲ませようとしたが
もう、息をするのも苦しいジョアンは、口を開けようともしない。
「ジョアン様、苦しくても、頑張って飲んで下さい。
広場で、カルルが、遊ぼうと待っていますよ」蕗がそう言うと
ジョアンは、やっと口を開け、薬を飲ませる事が出来た。
「もう大丈夫、直ぐに楽になりますからね」蕗はそう言い、一心に回復を願う
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