国交

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蕗は、その子を抱き上げ「まぁ、何て可愛いの」と、頬ずりをし 赤ん坊独特の、良い匂いを楽しんだ。 「おこがましい事ですが、この子は、半分蕗様の子供だと思って 大切に、育てて行こうと思っています」若い夫婦は、そう言った。 「半分、私の子供?」蕗が、怪訝な顔で聞くと 「はい、あの時、夫が死ねば、私はこの子を、お腹に入れたまま 海に身を投げるつもりでした」妻がそう言った。 「まぁ、そんな事を思っていたの?」蕗は、驚いた。 「はい、乳飲み子を抱えていては、何も出来ません、結局、この子は 死ぬ事になってしまいますから」この僻地には、田んぼは作れない。 生活の糧を手に入れるには、男達がジャングルの中から採って来る マーマやホムム、リナーと言うマンゴーを、中心地まで運び それで、米や調味料を手に入れて來るしか無かった。 その働き手が居なくなると、女もジャングルに入るか、運搬を手伝うしかない 「皆、助けようにも、自分の暮らしで、精一杯ですから」と、夫も言う。 「そうだったの、でも、これからは、少しずつ、暮らしも楽になると思うわ。 私の国の他にも、赤の国も、青の国も、ダーナンとの国交を開始するのよ そうなれば、この集落の後ろの森の中で採れる、色々な果物が、鉄製品や 小麦粉等、生活に必要な物と、交換できる筈だから」 「本当ですか?」夫は、喜びの声を上げた。 「ええ、この前、持って帰った、マーマもホムムも、大人気だったのよ」 「嬉しい事です、これも、蕗様が、この国に来て下さったお陰です」 夫は、希望に目を輝かせて、そう言った。 ダーナンの長の返事を持って、蕗は、翌日帰って来た。 それから、半月後、留学生を乗せた船が、ダーナンへ向かった。 今回は、蕗は同行しなかったが、カルルは、一緒に行った。 帰って来た船には、ダーナンの留学生が6人、乗っていた。 その留学生は、緑の国の酪農や、赤の国の鉄やガラス製品作り 青の国の、漁の方法、網や船の作り方等、色々な事を学びたいと言う。 その6人は、まず馬車を引く馬に驚いた。 車を引くのは、牛だけしか知らなかったし、その馬の走る速さにも目を剥いた 「これは、、是非この馬と言う動物を、ダーナンにも、連れて帰りたい」と 馬の育て方や、馬の調教、乗り方などを、学び始めた。 緑の国の酪農家は、そんな留学生に、手取り足取りと言った感じで 丁寧に、教えてやる。 一方、ダーナンに行った留学生も、その気候や珍しい植物に驚いていた。 「この、ぼうぼうと生えている植物は、木ですか?草ですか?」と ダニエルに聞く「これは、キキと言われてな、これで砂糖を作るんじゃ」 「こんな、固い物で?」甘味と言えば、大根に似た野菜から取れる物と 楓から取れる樹液と、蜂蜜しか知らない生徒達は、不思議がる。 ダニエルは、その植物の茎を切り、全く棒の様な物を、生徒に渡し 「皮を剥いて、齧って見ろ」と言った。 固い皮を苦労して剥き、その中身に口を付けた生徒達は 「うわぁ~甘~い」と、驚きの声を上げ「これが砂糖の原料ですか?」と聞く 「そうじゃ、では、今日は、その砂糖を作る所を見学しようかの」 そう言うダニエルに連れられて、砂糖を作っている家に行く。 砂糖作りを見学した、一人の生徒が「もっと沢山作れるようにすれば 我らには、貴重な砂糖も、手に入れやすくなりますね」と、言った。
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