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元気よく入場門から行進してきた園児達。
初めての運動会で緊張していた子たちもいたが、今はもう少しリラックスしている子達が多い。
それよりも気合い十分に入っている。
もちろんそれは保護者達も同じだった。
「怜空の方が順番早いのね」
未玖が「123…」と走る順番を前から数えてつぶやいた。それを拾ったのは、いつの間に近くにいたのだろう、梓だ。
「ひとつしか変わらないだろう」
「そうだけど!あれ?玲は?」
未玖がキョロキョロと見渡す。
すると、いつの間にかテントに戻っていたらしい。玲は咲茉と一緒に地面を眺めていた。
「擬似娘体験中」
「そんなことしたらまた喧嘩よ」
「心配しなくていい。その時はその時だ」
梓はキッパリハッキリ言う。玲の「娘がほしい」攻撃は今に始まったことではない。
定期的にあるものだ。こればかりは仕方ない。
「貸してあげようか?」
「雅までついてきそうだからやめろ」
「うちでもいいわよ」
「凌に泣かれたら面倒だ」
綾乃と未玖が面白がって梓に娘を推薦する。
だが、梓はスルー。あくまで親戚のおじさん気分らしい。
「あ!次りっくん!」
「えっ?!本当だ。あ、瑠…莉」
未玖は慌ててポケットから携帯を取り出そうとして、腕に抱く娘を見下ろしてハッとする。
写真は凌が撮っているし、ムービーも問題ない。カメラを通さずに、しっかり目に焼き付ければいいはずなのに。
「未玖ちゃん、ここに預かってくれる人がいるわよ」
「……お願いします」
母親から引き剥がされた瑠莉は一瞬驚いた顔をしたものの、梓だと知ればきゃっきゃっと喜び声をあげた。
「あーた!」
「なんだ」
「うぃた、にぃに」
「あぁ。これから走るから『がんばれ』って」
「にーにー、ぃえーー」
瑠莉の可愛い声援に振り向いたのは怜空ではなく、凌だった。
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