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「玲ちゃんまだ居るの?」
「うん」
「ヨカッタナ。これも、オレのおかげ」
エレベーターに乗り階表示を眺めている梓の隣で凌がドヤ顔をする。
本来の予定なら、ちょうど梓が帰宅するころ、玲は入れ違いで家を出る。
ただ、土曜日で朝早くからオフィスに篭り、そこに来た凌と雅に仕事を振ったおかげで予定より二時間も早く仕事が終わった。
ひとりで食事は寂しいだろうから、と凌と雅が梓を誘ったが、梓は自宅に戻るの一点張り。
ただ、一時間でも玲との時間を過ごしたいだけなのに、まだ夕食には早い時刻のため、凌と雅は面白半分、梓にくっついて来た。
「いいけど、早く帰れよ」
「わかったわかった」
「邪魔はしねーヨ」
梓は「本当、わかってんのか」と思いつつも、エレベーターが到着し扉が開いた途端身体を滑り込ませるように外に出る。
長い脚が自宅に向かい、扉の前で立ち止まるといつものようにチャイムを鳴らした。
「はいはい。ラブラブですこと」
「ホント。“ただいまー”って入っていけばいいのに」
凌と雅は呆れ顔だが、梓は知らんぷりする。
そんな梓に苦笑をこぼしながら、凌と雅はパタパタとスリッパの音を響かせて近づいてくる足音に耳を澄ませた。
扉がゆっくりと開き、中から玲が顔を覗かせた。
「おかえ…」
「え?」
「エ」
いつもの愛しい人の声。だけど、彼女は凌と雅が来たことに驚いたらしい。
ただ、同じように二人も固まっている。
梓は扉の影に立っていたせいで、二人がどうしてこうなったのか、すぐに理解ができなかった。
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