もしも梓が猫だったら

2/8
2664人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
 玄関でガチャリと施錠の音が聞こえた。 彼女の気配を感じてソファーから飛び降りると、扉の隙間に身体を捻じ込んだ。  スルリとすり抜けた身体が軽やかにフローリングを蹴る。  玄関のマットの上にちょこんと腰を下ろせば、わずかに開いた扉から大好きな彼女が顔を覗かせた。 「アズキー、ただいまあ。今日も疲れたよう」  彼女の名前は宮内玲。  俺の大大大好きなオンナだ。  「にゃあん」 (おかえり。おつかれ)  玲は俺を見ると嬉しそうに笑ってよしよしと頭を撫でてくれる。  今日も一日大人しく待っていたんだから、と甘えるように飛びつけば「はいはい」と抱き上げて頬ずりしてくれた。  「アズキは可愛いねえ」  俺はカッコいいがいいんだけど。  まあ、いいや。  玲が愛してくれるならなんでも。  「にゃあん」  (玲、愛してる)  ぺろっと頬を舐めれば玲はくすぐったい、と笑う。  俺にとって玲の笑顔が全て。  だから、たとえ可愛いと言われようが、仕事で一日放置されようが、こうやって傍にいる時は俺を見てくれるならよかった。  それだけでよかったのに。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!