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「始まるって」
テントの中では、三家族が既に乾杯を始めていた。さすがにアルコールはまだ早いので、ノンアルコールだ。
雅が入場行進曲が流れたことに気づくと、抱いていた咲茉を綾乃に預ける。
凌はこの日のために本格的なカメラを買った。雅はあいぽんの一番性能がいいやつだ。
手ぶれ補正も付き、とても綺麗に写るらしい。九条家は二度目のため、一度目ほど盛り上がりはない。
だが、玲は携帯を持つと雅と凌と一緒に向かう。未玖は瑠莉を抱き上げると帽子を被って玲の後を追った。
綾乃はチラリと梓を見て、腕に預けられた咲茉を見下ろす。
梓は綾乃がニマニマしている様子に嫌な予感がして目を逸らした。
だが、立ち上がった綾乃は遠慮なく咲茉を梓の膝に乗せる。
「よろしくお願いしまーす♡」
柔らかくふくふくした咲茉。気づけばもう、一歳半らしい。つい最近まで存在すらなかったのに、今は意思を持って言葉を話すまでになった。まだまだちゃんと話せないし、舌足らずもいいところだ。
だが、雅が毎日のように「咲茉が」「沙菜が」と言うせいで、勝手に自分の娘みたく思っていた。
娘がいたらこんな感じだろうか。
そう、想像して苦笑する。
玲には絶対言えないな。
梓は青空を隠すテントの中で胸にひっそりと留めておくのだった。
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