楽しい運動会

6/36
前へ
/95ページ
次へ
 「始まるって」  テントの中では、三家族が既に乾杯を始めていた。さすがにアルコールはまだ早いので、ノンアルコールだ。  雅が入場行進曲が流れたことに気づくと、抱いていた咲茉を綾乃に預ける。  凌はこの日のために本格的なカメラを買った。雅はあいぽんの一番性能がいいやつだ。  手ぶれ補正も付き、とても綺麗に写るらしい。九条家は二度目のため、一度目ほど盛り上がりはない。  だが、玲は携帯を持つと雅と凌と一緒に向かう。未玖は瑠莉を抱き上げると帽子を被って玲の後を追った。  綾乃はチラリと梓を見て、腕に預けられた咲茉を見下ろす。  梓は綾乃がニマニマしている様子に嫌な予感がして目を逸らした。  だが、立ち上がった綾乃は遠慮なく咲茉を梓の膝に乗せる。  「よろしくお願いしまーす♡」  柔らかくふくふくした咲茉。気づけばもう、一歳半らしい。つい最近まで存在すらなかったのに、今は意思を持って言葉を話すまでになった。まだまだちゃんと話せないし、舌足らずもいいところだ。  だが、雅が毎日のように「咲茉が」「沙菜が」と言うせいで、勝手に自分の娘みたく思っていた。  娘がいたらこんな感じだろうか。  そう、想像して苦笑する。  玲には絶対言えないな。  梓は青空を隠すテントの中で胸にひっそりと留めておくのだった。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2658人が本棚に入れています
本棚に追加