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いちについて、よーい
ピーッ
甲高い笛の音と共に小さな影が四つ走り出した。怜空は内側から二番目に並びスタートを切った。
物心ついた時からひとつ上の椿と環の後を追いかけた。それに、両親ともに運動神経は良い方だ。怜空にもその遺伝子は受け継がれていた。
「怜空ー!」
「りっくーん!」
ハラハラして見守る未玖の隣では雅と綾乃が「がんばれー!」と応援していた。
凌はシャッターを切りながら息子の勇姿を見つめている。
トラックは一周50m。さらに、かけっこはその半分の距離だ。あっという間に勝負が決まる。怜空はスタートダッシュで前から二番目だった。先頭の園児と肩ひとつ分の差。十分追い抜ける位置だ。
最後の緩やかなカーブで、怜空は追い抜かそうとする。両親、それに妹の瑠莉にいいところを見せたかった。
「よく頑張ったね!」「怜空、すごいね!」
褒めてもらいたかった。
だが。
「あ!」
「あーーー」
怜空はカーブを曲がりきれずに転けてしまう。足が痛い。手のひらも痛い。その痛みに泣きそうになったものの、涙をぐっと堪えてむくりと起きあがった。
「怜空ー!」
「りっくん、がんばれーー!」
雅と綾乃が声を張り上げる。
怜空の小さな膝小僧は赤く滲んでいた。
目からじわりと涙がでてくる。
それでも怜空は最後まで走った。
結果、四位だったけれど、沢山の拍手をもらった。「最後までよく頑張りした!」とマイクで先生に褒めてもらった。
それでも、怜空は痛くて、恥ずかしくて、悔しかった。
未玖は最後まで走り切った怜空を誇りに思う。後で沢山褒めてやろうと笑顔を見せた。
凌はただひとり、号泣する。
今すぐ傍にいって抱きしめたかった。
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